第28話 無限の可能性

 1マップ目は零さんたちのBチーム、2マップ目・3マップ目は僕たちCチーム。あと1勝で僕たちの優勝というところだ。このまま僕たちは逃げるか、零さんたちが逆転するかと、配信は盛り上がっている。


 今は4試合前の休憩中。そうえば、僕の配信は大丈夫かなと思い、確認していた。試合に集中してて、完全に配信のことを忘れていた。

 実際見てみたらすごいことになっていた。いつも見てくれる人、たまに見てくれる人、大会を通してみてくれる人、そして初見の人もいた。多種多様なたくさんの人が僕を見てくれていた。

 コメントを振り返ってみても、チームと同じようにナイスと褒めてくれ、負けてしまったらナイスファイトと讃えてくれる。実際の配信は3分間の遅延があり、直接コメントされているわけではない。だが、自分を応援してくれる人がいるということを気づけ、とてもうれしいと思った。また、さらに負けられない理由ができた。そんな気持ちにもなった。


 __________


 僕は最後までただ勝ちたいと一心で頑張った。大切なチームだから、大切な思い出を重ねたい。これは僕の最大のエゴである。


「やった。もう二人いる」


 でも、僕は失ったからわかるんだ。今しか経験はできない、この瞬間を無限大の可能性から、僕はこの道とそしてそこから見える情景を選び取った。


「ミッド2人抜けたな」

「ん。下がって」

「うん。カバーしているから花蓮も下がって」


「時間ない。次で一気に___」

「A来た。早めに当たるね。レナ」

「うん。モク入れた。行くよ」


 激しい銃撃戦。サイト内でキラトさんとレナさんが敵を牽制する。遅れて合流した僕は、高所からスナイパーを構える。引き金を引き切る。敵を一人落とした。それをきっかけに、キラトさんとレナさんが前に出る。互いに守りながら敵をねじ伏せる。ありったけのスキルと銃弾を使った。そして、僕のスナイパーとキラトさんのグレネードで最後の敵を討ち取った。


 ディフェンダーの勝利と、ゲームのナレーションが流れる。それと共に、僕たちは喜び合った。


「勝った!!!」

「ナイスーー!!」

「優勝だあー!」

「ナイス!」

「勝った」


 そう、つぶやく。優勝した実感があまりないが、確かな嬉しさが僕の心を満たした。


「うれしいけど疲れたね」

「うん。今日はぐっすり眠れる」

「僕も疲れました。でも勝てて良かったあ」

「うん。ルート君が一番頑張ってた。俺、あのスナイパーかっこよかった」

「ね。私も惚れ惚れした」

「レナはショタだからが8割以上だと思うけど」

「あはは」

「ふふ。お疲れ、ルート」

「うん、花蓮もお疲れ様」


 一番頑張ったかあ。みんなのおかげだから頑張れた、花蓮の支えがあったから頑張れた。心の中で確信していた。


「あ、優勝インタビュー来るって」

「よし。最後の力を振り絞れー」

「もしもしー。こちら実況席です。聞こえてますか?」

『はーいー!!!』

「まずはCチームの皆さん、優勝おめでとうございます!」

『ありがとうございますー!』


 こういう大会の醍醐味である優勝インタビューが僕たちに向けられた。最後の頑張りだと思い、疲れた心身を冷静に奮い起こした。


「では、一人ずつ聞いていきましょう。まずは、氷谷キラトさん、今回の大会を通していかがでしたか?」

「そうですね。Valのゲームは久しぶりで、慣れないこともあり大変でした。それでも、このチームだから、ここまでできました。優勝まで行けて本当にうれしいです」


 攻撃の役職を使い、チームにチャンスを作り続けたキラトさん。推しと一緒に優勝して楽しんでもらえ、僕もうれしかった。


「ありがとうございます。続いて、チームのモク使い、時雨レナさん。どうでしたか?」

「私は初心者で右も左もわからないまま始まりました。花蓮ちゃんとルート君に教えてもらいながら、なんとか本番に発揮できてよかったです」

「初心者の中で頭一個抜けて成長していましたもんね」

「やっぱ、支配という役職はチームの縁の下ですから。みんなのためにがんばれて、本当によかったです!」


 支配の役職を努め切ったレナさん。本当にチームにとって縁の下の力持ちだった。レナさんのおかげでチームが戦いやすくなった場面が多くあった。改めて、レナさんのおかげだなと思った。


「レナさん、お疲れ様でした。続いて、イフさんに聞いていきます。この大会を通して、特に印象に残っているシーンありますでしょうか」

「そうですねー。3マップ目の時、俺とキラトとレナの完璧なコンビネーション技のところですかね。長いことこの3人でやってきたからこそできた技で、とても印象的です」

「そうですよね。あの、完璧な合わせはプロでも難しいですよ」

「あと、このチームだからこそできました。初心者でうまくできるか不安でしたが、優勝できてほっとしています」


 イフさんは一番いろんな役職を触っている。マップによっても変わることが多くあった。しかし、初心者だったのにも関わらず、力強く役割を果たした。イフさんにも支えてもらったなあと思った。


「イフさんもありがとうございました。続いて、決勝で一番猛威を振るっていたルートさんに聞いていきましょう。まずはお疲れ様です」

「あ、お疲れ様です」

「スナイパー使いと決勝から構成を大きく変えましたが、それはどういう考えでしたんですか?」

「えっと、零さんに勝つにはスナイパーでないと抑えられないと思ったからです。やはり、零さんはむっちゃ強いです。そこを何とかするために、スナイパーを自分がしました」

「確かにそうですよね。世界一位の零。彼はエイム力が逸脱してますもん」

「結構、意味わからない攻撃もありましたね」

「全マップMVPを取りましたがそれについては?」

「MVP取れたのは本当にチームのおかげで。自分が狙いたいところのために多くのカバーをしてもらい、最高な環境のところで撃ち抜いただけです」


 MVPだったのか。あまり気にしていなかったので、それに気づかなかった。


「ルートさんもスナイパーありがとうございました。それでは最後、リーダー花蓮さん。まずはお疲れさまです」

「……お疲れさまです」

「最初のインタビューの宣言通り優勝しましたね」

「ん。このチームだから優勝できた」

「そうですよね。完璧なチームワークが見どころでしたよね」

「続いて、チームを教えることが多かったと思いますが、教える上意識していたことはなんですか?」

「んー。特に」

「花蓮ちゃん感覚で教えてくるからな」

「うん。ルート君の翻訳がなければ、きつかったな」

「まあ、うん。僕も慣れました……」

「あれ、花蓮さんが教えている訳ではないと?」

「ん?私教えてた」

「いやー、花蓮あれでは伝わらないよ。擬音が多いもん」

「うん。ぎゅってごんって言われても……それに比べたら、ルート君は的確に教えてくれるよ」

「チームでとても仲がいいですね~」

「その仲の良さがあったからこそのチームワークであると思うと、いいですよね」


 今のインタビューもなかなか怪しかったが、実況席の人たちがうまくフォローしてくれた。


「時間がそろそろということで、インタビューはこの辺りで。それではCチームの皆さん、優勝おめでとうございました!」

「おめでとうございます!」

『ありがとうございました!!!!!』

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