第27話 いつも

 現在、Cチーム対Bチームの決勝戦は1勝1敗と接戦である。

 先に3回勝った方が優勝。どちらのチームもあと2勝がいる。まだまだ、戦火は燃え盛っている。


 早くも休憩も終え、もう3試合目が始まっている。


「メインプッシュされた。早めにローテした方がいいかも」

「ん。このまま押し切ろう」

「エントリーする__」


 スナイパーをもちながらラークをしていたら、僕がやられてしまった。いつもとは違った動きをしようとしたが、死んでしまった。まだこのラウンドは終わっていないため、みんなが勝てるようにコールをしなければならない。

 でも、なぜか頭の中で言葉が引っ掛かる。いつもと変わらずプレーしているはずなのに、違和感を持つ。なぜだろうか。


 今は、僕たちが攻めをしている。ラウンドは3:7と不利である。しかし、このマップは防衛側が有利と言われている。後半があるから大丈夫なはずだが、なんとなく不安感があった。

 何気なく現在の成績を見ていると、僕は違和感に気づいた。僕はキルが取れていない。ほとんどがキラトさんと花蓮がキルしているということを。


 僕が意図的に避けられているということでもある。今回も序盤、敵がいなくて油断していた。そこを突かれ、僕がやられてしまった。また、疲れで集中できていないことも要因の1つだろう。まだ試合は終わっていない、頑張らないと。



「ナイストライ」

「油断した。マイバットです」

「いや、どんまい」


 僕が一人で考えていたら、いつの間にか負けてしまっている。早く切り替えなければ。


「タイムアウト取る」


 一試合で一回しかできない一分間。作戦を練り直すつもりだろうか。花蓮はタイムアウトを取ったのだろう。どんな作戦にしようか、僕も頭の中で考えようとした。すると、意外な言葉が僕に向けられた。


「ルート、大丈夫?」

「あっ、うん。ごめん、あんまり集中してなくて」

「ん。集中」

「あはは、僕もこんなに長い配信は久しぶりで疲れた」

「そう?私は楽しいからまだまだいけるよ」

「俺も全然いけるぞ」

「ルートは考えすぎ。楽しんで」

「……うん」

「あと全然勝てる」


 僕は考えすぎたのかもしれない。というか、花蓮を信じてなかったのかも。どちらにせよ、原因はどっちでもいい。僕は何のために参加したのか、今一度思い戻す。

 花蓮のため、恩返し、優勝したい、そして一緒に楽しむこと。ゲームは一緒に楽しんでこそだ。このValでもそうだ。


「さて。作戦はスナイパーを護衛しよう」

「え、僕を?」

「構成的にエリア取りは刺さらなそう。だから、力でエリアごと押し返す」

「結局はゴリ押しね!」

「力こそ正義だからね。ルート君のワンピックでエントリーって感じかな」

「ん。ウルトも切っても」

「あ、私も相手のを返す感じでいいよね」

「ん」

「俺も秘伝のグレネードで相手を苦しめよう」


「さあ、ルート敵倒して」

「……」


 あまりの雑さに、僕はいつも通りなんだなと思ってしまった。2試合目は自分が何とかしなくてはと強く思いすぎた。だから、背負いすぎていつも通りが出来なかった。

 花蓮はいつも通りを繰り返せば、勝てると言いたいのだろう。相変わらず、言葉足らずで、最初は理解できなかった。これもいつも通りか。



「うん、分かった。お金ないからアマーなしでいくね」

「ん」


 タイムアウトの時間が終わり、試合が再開された。

「よし……」

「足音、2人ぐらいかな」


 キラトさんの言葉と共に、敵は前に現れた。僕も引き金を引いた。すると、遅れて閃光がやってきた。僕がやられてしまう。と思っていたが


「やった。このまま押すよ。キラト入って」

「うん。いない、ショートだけ注意ね」

「設置で来た」

「ルート、ヘブンから覗いて」

「うん。__あぶな。一人やった。もう一人」

「やった」

「ショート。あ、ナイスー」

「ナイス」

「ナイス~」

「ナイス!」

「はぅァイスー」


 圧倒的な速さ。僕たちの強さが発揮できたラウンドになった。……変な声が出たが。

 最後のラウンドを取り切り、5対7まで巻き返してきた。


 勝てると花蓮が言ってから勝ち続けている。信じるただそれだけだ。



 そして。花蓮が的確なオーダーをする。キラトさんとレナさんは二人三脚しながら確実に守る。イフさんは一人でも力強く敵を遮る。僕がひたすら相手の隙を狙い、撃ち抜く。完璧なチームワークで相手を翻弄する。

 それでも、相手は勝とうと一瞬を突かれることもあった。僕たちも負けてられない。僕たちもそれに対応しきり、押し切った。


 3マップ目、13対も11で僕たちの勝ちだ。

 優勝まで、あと一歩。

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