第18話 熱
明け方まで練習していたので、起床したのは昼頃だった。本来なら、早起きをして、本番まで腕を温めたり、チームで最後の確認したりするだろう。しかし、僕たちは無理をせずに、本場まで各自過ごすことにした。
今、僕は散歩していた。一人でのんびりと、特に考えず。いや、頭の中には今日のことでいっぱいである。だが、今は何も考えないようにしている。緊張しすぎても体に悪いからね。
「暑いな。もう夏か」
今日は7月25日。もう七月の終わり。つまり真夏だ。
「やっぱ、嫌いだ。この暑さ」
僕は夏の暑さが嫌いだ。このなんとも言えない温度に、何も考えたくなくなる湿度。あの時も、このぐらい暑かったのだろうか。
小学校の頃、家族で行った海、プール、川。小学校の記憶なんて、今となればあまり覚えていないけど、楽しく涼んでいたんだろう。
中学三年生の頃、妹がどうしても行きたいと喚いていた、避暑地でのキャンプ。この思い出は明確に覚えている。初めて体験したが、キャンプのなにげない不便さが楽しかった。久しぶりに、家族全員で寝た。あまり寝れなかったけど。
そして、去年の夏。思い出も何もない空白の夏。ただ、家族と足を失ったという事実しか残っていなかった。正直、今も自分がちゃんと生きているか、わからない。自分で生きていると思っていないから。
「…………」
でも、今年の夏は少しだけいいと感じている。それは間違いなく、チームの四人とおじさんのおかげだろう。昨日もおじさんと会話をしたことで、チームと深く関われ、今日とてもワクワクしている。
「どうしたいか考えろか。昨日のおじさん、お父さんみたいだったな」
『rootのように、この世界には必ず答えとその道筋は存在している。だが大抵のことは、その答えを求めるために、無限大のことから導いていかなくてはならない。rootのように答えがあっても無限大なんだよ、この世界は』
去年の秋、おじさんから教えてもらった言葉だ。当時の僕の心に刺さった言葉だ。
過去の答え、今の答え、そして未来の答え。結局、無限大だから答えがわからないから、そんな気にするなという意味だと思う。いい感じで深い言葉に聞こえて実はそんな深くない。
そしてこの言葉はおじさんのお兄さん、つまり僕のお父さんが考えたらしい。お父さんがこのような言葉を考えていたとは想像がつかない。てか、普通に恥ずかしい。
まあ、だから僕はルートという名前で生きている。
だって、お父さんからもらった最後の言葉だと思っているから。
「お腹すいたし帰るか」
__________
私花蓮は、レナちゃんとValを練習していた。本番までまだ数時間あるが、特にやることがなかったので練習していた。
「花蓮ちゃーん。あれ聞こえてる?」
「ん。どうした?」
「いや、急にしゃべらなくなるから」
「ぼーとしてた」
「ぼーとしてたら弾当たらない気がするけどね……」
「ん?脊髄反射。頑張れば、こうなる」
「そうなの。あんまなりたいとは思えないけど……。ねえ、一つ疑問に思ったことがあるの。配信してないから聞いていい?」
「ん?いいよ。Valのこと?」
「違う。ルート君のこと」
「ルートのこと……。それを私に?」
「単純に聞くけど、ルート君のことどう思っている?」
「どう思っているというと?」
「どんな感情をもって接しているのかなとか」
「んー、そういわれても特に何も考えていない」
「正直な話、昨日ルート君が話そうとしていなかったら、今日憂鬱で最初から負けていたかもって思うんだ」
「ん。それは私もそう思う」
「だよね。花蓮ちゃんはやることが多すぎて限界だったよね。そこでルート君が動いてくれたからよくなった。ルート君も言ってたけど、本当に花蓮ちゃんのためにやっていて、なんかうらやましい」
「私のためにかぁ」
「きゅんと来た?」
「…………まあ、正直そう」
「わかる。ショタにあんな風に言葉をかけてほしい」
「……私はショタコンじゃないよ。それはレナちゃんだけ」
「えー、本当にショタ嫌いなの?ということはルート君はー」
「まずルートってショタなの?」
「うーん、17歳って結構そうぽいけど、ルート君は大人びているからね」
「ね」
「まあ、ルーカレてぇてぇを見られるだけで幸せだけどね」
「はいはい」
「で、どう思っているの?」
「……流せると思ったのに」
「残念でした」
「んー。いい子だと思っている」
「ほう」
「ちゃんと言うこと聞いてくれるし、優しいし。いい弟子を持ったと思っているかな」
「それでそれで」
「もっと?私を辱しめるつもり?」
「うーん、最後に好きか嫌いかで」
「それ一番ダメじゃない……。まあ、ん、好きだよ」
「うん、それでいいと思う。その気持ちを忘れちゃダメよ」
「というかなんでこんなこと聞くの?」
「いや、なんか今日の花蓮ちゃんがよそよそしくて、緊張しているのかなと思ったからかな」
「そんな変?」
「いや、あんま変わらないけど、女の子ならわかるんですー。まあ昨日のこともあったしね」
「そうだね。本当なら私が言うべきだった」
「そっち?てっきり、告白まがいな事されて気まずいのかと」
「ふふ。それはいつも通りだからいいけどね。あと、私が言うべきだったと思うと、申し訳なさが勝つ」
「そっか。でも、好きでしょ?ならいいじゃん」
「んー。それでいいのか……?」
「そんなものでしょ。気にしない気にしない」
「ふふ」
「あはは」
「勝って恩返しするよ」
「そうだね。勝とう!」
__________
「さてこれで全員いるねー」
「ん。最終仕上げしよ」
「はーい」
「あい」
「はい」
さて、本番までもう少し。
今度こそ、僕たちは強くなった。勝つための準備はもうできた。
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