第16話 root

 今日は大会前日。最後のスクリムを行う日だ。

 前回、世界1位がいるチームに負けて悔しい思いをした。だから今回は、挽回しようと一生懸命練習した。そして、今日、改善したことを発揮しようとした。

 だが、負けた。零さんのチームだけではなく、前回勝ったチームにも負けてしまった。

 つまり、僕たちは全敗し、最下位という結果で最終スクリムを終えた。


 __________


「はあぁ」


 配信を終えた僕は、どうすればいいかわからず、パソコンの前に座っていた。

 正直、僕のせいだなと感じている。あの時、僕が勝っていたら、僕が強かったらあそこを勝てたなど、様々な理想だけが思いつく。そんな、もしもの理想なんて存在しないのに……。

 考えがネガティブになっていた。一回深呼吸して、少し落ち着かせる。


「冷静に……、冷静に……」


 やっぱり、あの空気感がダメだった。配信の時でも、チームの雰囲気が良くなかった。緊張しているのはいいのだが、切羽詰まりすぎてゲームが上手くできていない。僕たちは下手なのか___。


「……そんな訳ない。けど……」


 頭の中でひたすら考える。

 それでも、考えて考えても思いつくのは「もしも」のことだけ。後悔しかそこにはなかった。

 頭が痛い、気持ち悪い。僕は取り戻せないことをしてしまったのかな___。


「おーい、智樹gー。大丈夫か?」

「……」

「おい、智樹。しっかりしろ」

「……え、はい」

「大丈夫か?」

「あ、おじさんか」

「うん?俺だよ。てか、大丈夫か?」

「……大丈夫じゃない」

「……そっか。話聞こうか?」

「……お願いします」

「あいよ。ま、その前に風呂入ってこい。顔がなかなかひどいぞ」

「……うん、分かった」


 今の状態では、おじさんとの話し合いすらできない。心を安定させるため、僕は重い体を強引に動かし、風呂場に向かった。風呂場の鏡には、両足がなく青白い身体と僕の蒼白な顔が写っていた。


 __________


「よし、少しはましになったな」

「うん。自分が叔父さんみたいに死んだ目をしていた」

「俺も普段そうなっているのか」

「うん」


 風呂から上がった。叔父さんにも言われたけど、少しは落ち着けた。

 助けて。


「それで何があった?おそらくは配信関連だと思うけど」

「うん。配信のこと。僕、大会出ているんだ。Valっていうゲームの」

「え。Val公式カジュアル大会?あの結構でかい大会に?」

「うん」

「ほえー、すごいな。ちなみに何チーム?」

「Cチームのルートっていう名前でやっている」

「ルートか……。Cチームは、えっと、あーなるほど」

「調べたの?まあいいけど。書いてある通り全敗したんだ、今日。それで自信というかメンタルがボロボロで」

「ふむ。前回のスクリムでは2位か。今日は最下位って感じか。ぱっと見た感じ、だからなんだって感じなんだが?」

「はい?」

「明日本番だろ?そこで勝てば関係ないだろう?」

「そんな簡単に言われても__」


 明日、勝てばいい。そんな簡単な言葉で片づけていいのだろうか。


「そうだな。でも、智樹、あきらめるの?」

「そんな訳ない。あきらめない。勝ちたい」

「うん。そうだよな。勝ちたいよな。そのためにお前はなにをする?」

「僕がする事……つまり、自分の役割ってこと?」

「役割でもいい、明日智樹がやりたいこととか、すべきことはなんだ?」

「僕の役割は___」


 僕の役割はなんだ。おじさんに言われて、僕は考えた。

 敵を倒す。キャラの役職を全うする。そんな安易な事じゃないはずだ。じゃあ、なんだ。僕がしたいこと、すべきこと、役割……


「よし、ここで詰まっているようだな」

「……うん」

「それじゃあ、さっきも言ったが、勝ちたいという気持ちがあるだろ?じゃあ、なんで勝ちたいと思っているんだ?」

「それは……なんでだろう?」

「あれ、すんなりそこが出てくると思ったが出ないのか。……あー、なるほどな。そういうことね」

「なんかわかったの?」

「智樹の動画とか見させてもらったよ」

「あ、ルートって教えてしまった」

「まあまあ。その分は手助けするから。さて、質問を変えるけど、ゲーム好きか?」

「Valのこと?普通に好きだよ」

「なんで?」

「また理由?理由なんか特にない気がするけどな」

「いや、ちゃんとした理由がある。そして、その理由が大切だ」

「うーん、言われてみればなんで好きかあ。こっちも分からないよ」

「ヒントを上げるとしたら、もっと単純な事だ」


「単純な事、単純な事。うまくなるとうれしいとか?」

「確かにそれもあるな。てか、もっと欲望に忠実になれよ。それでも高校生かー」

「欲望に忠実じゃないって言っても、別に無欲っていうことじゃないよ。プレーを褒められるとうれしいし、もっと頑張ろうってなるよ」

「いいよー、そこをもっと深堀というか素直になるというか。」


「素直になるとか、花蓮も言ってたなあ。素直にかあー。……あ、Valが好きな理由は花蓮だ」

「…………ん?それってどういう意味?」

「花蓮が教えてくれたんだ、Valの楽しさを。あ、そういや花蓮はね、僕の師匠でゲームを教えてもらっている人」

「ふーん。それが答えじゃない?」

「うん。Valの楽しさを知ったから、このゲームが僕は好き」


「それなら、なんで勝ちたいか見えてきたんじゃない?」

「あ、うん!分かった。僕は花蓮のために勝ちたいんだ。誘ってくれたり、出逢ってくれたり、その感謝を結果で示したい」

「いい理由じゃないか」

「それじゃあ、僕の役割は……」

「ふむ。そうだな、俺はそこまで詳しくないが。智樹のチームに足りないのはコミュニケーションだと思う」


 スマホで動画見ながらおじさんはそう言った。

 僕は、正直どういうことかわからなかった。


「そう?みんな普通にしゃべっているよ。配信していても、特に言われてなかったし」

「いい例えが思いつかなから、実際に見せながら説明するか」


 そう言い、おじさんはノートパソコンを出した。そして、画面を見せてきた。


「まず、そうだな。先週のからみるか。一番初めとかは緊張しながらもみんなテンション高くていい感じで進められているだろ?」

「うん」

「で、最後らへんとかは、みんな疲れてきて油断して負けている。ほらこことか」

「言われてみれば、そんな感じがする」

「あと、智樹が言っていた花蓮さんだっけ?その人が一回一回全部指示している。やっぱ、花蓮さんも疲れてうまく作戦ができていないみたいだ」

「そうだったのか……」

「それで今日のやつも、なかなかうまくいってないな。これは……みんな花蓮さん頼りだから総崩れしている感じがする」

「……うん」


 僕は気づいていなかった。こんなにも花蓮を頼りすぎていたことを。一人に押し付けていたから、うまくいかなかった。このような状態にした、僕のせいだ。師匠を支えるのも弟子の務めである。


「まあ、そんな顔するな。まだ、負けてないだろ?」

「……うん」

「えー、何これ……。これ本当に智樹なの?」

「えっと、これは普段の配信だよね?ちゃんと僕だよ?」

「あー、やっぱそうだよな。うん、智樹……」


 呆れたような目で僕を見てくる。


「え、なに?」

「いや、俺がいうべきではないな」

「まあ、とりあえず、何をすべきかまとまったよな」

「うん……、花蓮のために勝ちたい。そのために、僕は花蓮を支える」

「おぅ。それなら、行ってこい」

「よし。わかった、早速みんなと話し合ってくる」

「そうか。頑張ってこい」

「うん」


 いってらっしゃい。お前もう大丈夫だから。

 rootのように正解があっても、答えは無限大なんだから。


「……大きくなったんじゃないか?兄さん、義姉さん」

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