第15話 スクリムと成果と課題

 顔合わせから、早くも二週間がたった。

 あれから何度もコラボを重ね、普通にしゃべるくらいまで慣れた。いや、慣れさせられた。上手くしゃべられなかったら、あの地獄をもうやらされるところだった。……命拾いした気分だ。


 僕はコラボ配信でたくさんの経験をした。

 まず、お互いを知るためにカジュアルを回しながら、雑談をした。雑談は終わることがなく、盛り上がることができた。それは、キラトさんやレナさんが言葉を回して、イフさんが付け加えてもらったからだ。やはり、配信歴の差や配信者力を感じた。僕もそうなれるよう努めようと思った。


 それから、もちろんValの練習を積み重ねていった。花蓮が主に教え、補助として僕も教えていた。僕はどちらかというと、感覚派でしゃべる花蓮の話をうまく言語化することをしていた。キラトさん曰く、僕が翻訳してくれなければなかなか苦戦していたっと。まあ、僕は慣れたというか……。


 そして、僕たちは二週間の練習を重ね、かなり戦えるようになってきた。いや、どのチームより練度が高いと感じていた。


 そして、今日から一週間のスクリムが始まる。

 スクリムとは、大会前に大会と同じようにゲームをする、練習試合のようなものだ。実際に試合をすることで勝つことで自信をつけたり、課題を見つけ本番まで高めたりできる。そのため、このスクリムはどのチームにとって大切なものである。


 ___________


(今回も通話のマイクミュート中は『』で表記しています)


『ああ、よし。Hello、みんな。今日はスクリムだよー。応援よろしく!』


 :ハロー、スクリムがんばれ!

 :ハローがんば

 :hello!


「配信始めたー」

「私も」

「ん」

「僕もできた」

「できましたー!」

「よし、今日はスクリム初ということで頑張ろう!」

「うん」

「ん」


「とりあえず、ここからは花蓮リーダーの指示で」

「ん。いつも通りで頑張ろうー」

「ゆる!」

「花蓮ちゃん、私の手が震えています」

「震えがなくなるまで、エイム練習しよっか?」

「震えと震えで、プラマイゼロです」

「ん」

「今日も師匠がキレッキレ」

「あ、ルート君、一緒に練習行かない?」

「あ、キラトさん。いきます」

「じゃあ、俺も」

「あ、私も」


 ぞろぞろと、みんな流れに乗っているところを「じゃあ、ん」っと花蓮も流れを沿うが

 みんなそろって「花蓮(さん)はここで!」と言った。


「えー」

「壊される。ゲームもメンタルも」

「俺もあれでは練習にならない……」

「……師匠。僕たちを思ってお願いします」

「えー、私だけ仲間はずれ」

「師匠ー、そこをなんとか」

「ルートだけセット増やすか」

「えー!」

「今日も師弟で尊いですねー」

「今日もおねショタ見られて元気出た」

「レナ、引かれても知らないよw」


 配信開始直後は初めてのスクリムで少し緊張があった。しかし、今ではいつも通りに楽しくできている。これも、メンバーのおかげだろう。そんなこんなで、ゆるい雰囲気のまま、僕たちは事前練習をした。


 __________


「それでは、Cチーム対Dチームのスクリムです。スタート!」


 ついに、本配信の合図とともにスクリムが始まった。


「今回は守りだから、ゆっくりやろう」

「はい」

「キラトさん、いきなり、あれやりましょ」

「いいよ。前に出ようか」

「ん。がんば」


 一ヶ月の練習で、僕たちはたくさんの経験をしてきた。大会前の評価を改めさせるほど強くなったのだ。

 僕たちCチームは、他の班よりも初心者枠が多い。一人一人の技術が重要になってくるValにとって、それは大きなハンデだった。

 しかし、イフさん、レナさんは一人で戦えるように強くなった。それほど練習を重ねたのだ。また、僕たち独自の作戦も立ててきた。


 だから、


「やっぱ、こっちきたよー、きらさん!」

「はい。……1枚やった。2、3……」

「ナイスー」

「ん、いいよー」

「私詰めるね」

「僕たちはここで」


 ……だから


「うん。あ、足音」

「……二つ。一緒に出よ」

「はい、せーの」

「あ。ローです!」

「うおおおお!エースだー!」

「おおおお」

「なあいす!」

「ん。ナイスエース」

「ナイス!ルート君カバーありがと」

「ナイスエースです!」

「そろそろ、次行くよ」


 …………だから僕たちは強くなった。勝つための準備はもうできた。


 __________


 現実はそうは甘くないらしい。

 準備万全と思っていた。スクリムが始まる前、僕は世界5位の花蓮と強くなったキラトさんたちがいればすんなりと勝てると思っていた。

 しかし、世界は広かった。今回の大会にはさまざまな人が参加している。元プロゲーマーやストリーマー、もちろんゲームが好きなゲーマーも。そして、Valで強い人も。お互い、勝つために切磋琢磨練習してきたのだ。対戦相手に対する視野が狭かったなと痛感し、反省した。


 スクリムの結果は二勝一敗。僕たちは一度負けた。世界一位が所属するチームに。

 スクリム後に調べたが、世界一位の人の名前は零<ぜろ>さん。圧倒的なフィジカルとリーダーシップで、チームを引っ張ていた。的確な指示をする人だと感じた。

 実際に戦ってみて、自分たちの弱みを突かれ、なにもできないまま負けてしまうことが多くあった。また、零さんだけではなく、チームメンバーも強い。まったく、Valをしていない人も、今日のスクリムで活躍できるようになっていた。零の天才的な指示にそれを実現するチームメンバー、さすがは優勝候補だ。


 僕たちも負けてられないと感じた。今回の一週間前のスクリムで自分たちの課題が見てきた。本番や本番前スクリムまで時間があまりない。勝つために、頑張ろうと思っていた。


 それでも、うまくいかなかった___

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