【第42話】女子風呂偵察計画
今はボルテたちのことより、敵の情報を集めることが先決だ。
「──3年A組を全滅させた、魔王の腹心の部下のことだ。誰も見たやつがいないんだけど、コトネは何か知らないか?」
「魔王の手下は何人か倒したが、7つの勇者パーティーや3年A組を全滅させるほどの実力をもった者はいなかった。その敵は魔王本人か、あるいは未知の敵なのだと思う」
「魔王本人だって? こんな片田舎に魔王が攻めてくる可能性は低いと思うけど、その魔王ってやつはどんな技を使うんだ?」
「呪術だ。相手の姿を動物や虫、無機物などに変えてしまう。私がラケットに変えられたように」
「もし、もう一度ヤツと戦うことになったら、勝てるのか?」
「勝算がないわけではない。ラケットに変容した私を、今のヤニックが使うのなら」
おそろしい術を使う魔王だが、この慎重な性格のコトネが、勝算があるといっている。
それなら、本当に勝負になるかもしれない。
とりあえず、魔王の呪術のことや、もし敵が魔王だったとしても勝算があることは、3年C組のみんなにも知らせておいたほうがいいだろう。
「ボルテ先輩──ん?」
いつのまにか、ボルテ、ザンボ、ダイタンの3人の姿がない。
どこへ行った?
大部屋に戻ってみよう。
*
いた。
大部屋の片隅で、ボルテたち3人は何やら話し合っていた。
「先輩、俺たちが戦う敵のことなのですが」
「おう、ヤニック君。コトネちゃんは?」
「たぶん女子部屋に戻ったと思います」
「そうか。ところでヤニック君、風呂に入ったことがあるか?」
「フロ? なんですかそれ?」
「汚れた体を洗い流す場所だ」
「ああ、川のことですか」
「いや、風呂はこの宮殿の中にあって、あたたかいお湯で体の汚れを洗い流すことができる部屋だ。王族や衛兵だけでなく、訓練期間中は僕たちも使用することが許されている。まもなく入浴時間だ」
「へえ~。行ってみたいな」
「だが、僕たちは風呂に入っている場合ではないのだ」
「なぜですか?」
「なぜなら、入浴するときは裸になるからだ」
「そりゃそうでしょう」
「女子も同じ時間に入浴するのだ!」
「えっ、同じ部屋で?」
「そうだったらいいが、残念ながら女子風呂は男子とは別だ」
「ああ、そうでしょうね。……って、もしかして先輩!」
「ご想像のとおりだ。もちろんヤニック君も参加するだろう?」
「えっ!?」
「コトネちゃんやモナちゃんたちの、生まれたままの姿を見たいとは思わないのかい?」
「そ、そりゃあ見たいですけど」
「ならば、決まりだ。では、これより女子風呂偵察計画を実行する!」
確かに見たい。
激しく見たいのだが、先輩たちみんなに、モナやコトネの裸を見られるのは抵抗がある。
なんなんだ、この葛藤は!?
そんなことを考えている間にも、ボルテたちは手書きの地図のようなものを見て何かを話し合っている。
「何をやってんですか?」
「これが宮殿内の見取り図だ。ここが女子風呂。男子風呂との間には、湯沸かし部屋がある。湯沸かし部屋には常に湯沸かし担当の老婆──通称・湯ババアがいる。この計画の成否は、いかにこの湯ババアを部屋から追い出すかにかかっている」
「そんなことができるんでしょうか。もしできたとしても、どうやって女子風呂をのぞ……偵察するんですか?」
ボルテは懐から先の尖ったものを取り出した。
「ヤリの先端を切り出したものだ。こいつを使う!」
「用意周到ですね……。でも、宮殿に傷をつけたら死刑なんじゃ……」
「そうだ。しかし、きみがそんなことで臆する男ではないことは、さっきの戦いでわかっている」
これって、ほめられているんだろうか。
バカにされているんだろうか。
「まあ、そうですけど……。湯ババアはどうするんですか?」
「そこでキミの出番だ。湯ババアは若い男の子が大好きなのだ」
「えっ、俺が気を引くんですか!? 若いったって、先輩と2歳しか違わないでしょ!」
「この時期の2歳は大きいのだ。ヤニック君、キミならできる!」
「仕方がありません。やりますよ」
「では、計画スタートだ!」
俺たち4人は何食わぬ顔をして大部屋を抜け出した。
何か大切なことを忘れている気がするが……今は偵察計画のほうが、たぶん重要だ。
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