【第43話】ユートピアへの道

湯沸かし部屋のドアをノックすると、中から小柄な老婆が顔を出した。


「おや、見ない顔だね。これから入浴時間で忙しいんだけどね」


「実は俺、湯ババアさんと話をしてみたくて」


「そうかい。じゃあ中で話そうか」


「いや、あっちのほうで座って話そうよ」


「いったろう、坊や。今、それどころじゃないんだよ」


「ほんの少しの間だから。携帯食だけど、干しイーモもあるよ」


「そうかい。干しイーモには目がなくてね。じゃあ、ごちそうになろうかね」


なんだか騙すのが申し訳ないぐらいに、人のよさそうなおばあちゃんだ。


湯ババアが湯沸かし部屋を出たと見るやいなや、ボルテたちは光のような速さで中に潜入した。


俺は、湯沸かし部屋から少し離れたところに用意したイスに湯ババアを腰かけさせた。


「湯ババアさん、ちょっと俺トイレ。すぐに戻るから、干しイーモでも食べてて」


そういい残して湯沸かし部屋に戻る。


ボルテたちは必死に壁に穴をあけようとしていた。


「ボルテ先輩、計画の進捗状況は!?」


「もう少しだ! もう少しでユートピアへの道が開通する! よし……!」


ボコッ。


開通したのはいいが、思いのほか大きな音が出てしまった。

大丈夫だろうか。


ボルテがそっと穴の中をのぞいてみると……。


「ん……? 何も見えない……。目?」


「誰!?」


穴の中から女子の声がした。


「まずい、気づかれた! 計画中止! 逃げるぞ!」


俺たちは走った。


だが、早くも扉の外には数名の女子たちが詰めかけていた。


中にはモナ、エルミー、アンヌ先生、そしてコトネも混じっている。


女子たちはみんな体に入浴用タオルを巻いているだけの状態で、異様になまめかしい。


俺たちは開きかけた扉を再び閉じて、必死に立てこもった。


ドンドンドン!


「中にいるのはわかってるのよ! 出てきなさい!」


「この変態! 早く出てこい!」


ああ、もう終わりだ……。


そのとき、扉の外で湯ババアの声がした。


「おや、何ごとだい?」


「湯ババアさん、ノゾキの犯人が中にいるんです!」


「ああ、違う違う。うっかり壁に穴をあけてしまってな、あいつらに修理を頼んだんじゃよ」


「えっ、そうなんですか?」


「誤解されるようなことをして、スマンかったな」


「女子風呂の壁の修理なら、女子に頼んでくださいよ」


「それもそうじゃな。最近少しボケが進んでしまって、気が回らなくてな。次からはそうするわい」


湯ババアさんの謎の説得のおかげで、女子はみんな戻っていった。


「湯ババアさん、どうして俺たちをかばったんだ?」


そうたずねると、湯ババアは壁を指さした。


「ほれ、見ろ」


「なんだこれ!? 壁に穴をあけた跡が何十個も!?」


「そう。おまえたちだけじゃない。3年A組もB組も、衛兵や王族の連中も、みーんなここに穴をあけに来よった」


「じゃあ、最初から俺たちの目的がわかってたの!?」


「まあな。若い男がここに来たら、目的はみーんな同じじゃ。……それで、見えたのか?」


「いいえ……」


「クックック。それは残念。魔王を倒して、生きて戻ってこい。そのときはまた、協力してやる。ババアは若い男たちの味方じゃ」


「「「「はい!」」」」


俺たちは涙を流しながら、湯ババアに敬礼したのだった。


みんなの裸を見られなかったのは残念だが、全裸よりもタオル1枚巻いて大事なところを隠している状態のほうが、むしろ俺の嗜好には合っていたなあ……とか思いながら。

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