【第39話】アンヌ先生の策略

俺たちと先輩が戦う?

アンヌ先生は何を考えているのだろうか。


3年C組のクラスリーダー、ボルテはちょっと首をかしげた。

しかし、すぐに合点がいったという表情になった。


「ああ、アンヌ先生、そういうことですか。僕たちに稽古をつけてほしいんですね? いいですよ。あそこで今、戦ってるのがC組では一番弱いパーティーです。彼らにハンデをつければ、1年生でも勝負になるかもしれません」


「いいえ、ボルテ。戦うのはあなたたちのパーティーよ。ハンデは不要」


「先生、それは無茶だ。僕たちの力は知ってるでしょう? そりゃあC組に甘んじてはいますが、グロワール高校のトップクラスであることには違いない。1年生とは実力が離れすぎています。それとも、そっちにはアンヌ先生も加わるんですか?」


「いいえ。戦うのは、このヤニック、モナ、エルミーの3人よ」


「3人のうち2人は女の子じゃないですか。いくら先生の頼みでも、無理です。かわいい1年生にケガをさせたくありません」


するとアンヌ先生はニヤリと笑った。


「ケガをするのはどっちかしらね? それとも、後輩に負けて恥をかきたくないとか?」


「まさか! そこまでおっしゃるなら、いいでしょう。ザンボ、ダイタン、試合の準備だ!」


呼ばれてやってきた2人も、ボルテほどではないが大柄で、しかも筋肉質な男だ。


トゥーネスは、体格はそれほど関係ない競技だとわかっているが、ここまでゴツい男が3人もそろうと絵的な迫力がすさまじい。


実際、さっきも同級生を圧倒していたから、見た目だけでなく実力もかなりのものなのだろう。


特に超電磁砲弾を使うボルテは、草トーで戦ったどの相手よりも強い気がする。

はたして俺たちの力は彼らに通用するのだろうか。


もし、通用するとしたら……。


そこまで考えて、ようやくわかった。


「アンヌ先生のねらいが、やっとわかったよ」


「ね? いい考えでしょう?」


モナとエルミーには、まだわからないようだ。


「ヤッちゃん、どういうこと?」


「どうして先輩たちと戦わないといけないの?」


俺は体育館のスミを指さした。


「……? 見張りの衛兵さん?」


モナはまだわからないようだが、エルミーは気づいたようだ。


「あっ、そっか! 私たちが先輩と対等に戦えるってわかれば、きっと勇者パーティーに加えてくれるねェ!」


「そういうことだ。わかったら、試合の準備だ!」


   *


俺たち3人は、ボルテが率いる勇者パーティーと対峙した。


こちらは俺が前衛で、モナとエルミーが後衛のポジション。

敵はボルテが前衛、ザンボとダイタンが後衛だ。


周囲にはギャラリーが集まっていた。

他の3年C組の生徒たちと、見張りの衛兵である。


サーブ権は、「もちろん後輩に譲ります」というボルテの言葉で、俺たちがもらった。


「試合はセルフジャッジ(審判なし)でいいわね。では、始め!」


アンヌ先生の言葉で、試合は始まった。


さて、どんなサーブでいくか。


「コトネ、おまえに任せていいか? ド派手なサーブで、一撃でしとめよう。派手な技のほうが衛兵へのアピールになる」


「ケガをさせてもいい?」


「遠慮はいらな……あっ、ダメだ。先輩たちはこれから魔王討伐に向かうんだ。味方の戦力を削いでどうする」


ここにきて、また大問題が浮上してしまった。

派手な技で倒したいのに、相手にケガをさせられないとは。


考え込んでいると、ボルテがじれったそうにいった。


「おい、1年生。早くサーブを打て。僕たちは忙しいんだ」


カミカゼで先輩たちの服を脱がす方法もあるが……。

それで衛兵の評価が上がるとは思えないし、そもそも男の裸なんか誰も見たくない。

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