【第38話】国王はおまえらなんかに会わない
「ヤニックさん、起きなさい」
ほほをペシペシと叩かれて、俺は目が覚めた。
「うう……アンヌ先生?」
「大丈夫? カッコつけて一気飲みしたりするから」
「あったまいてえ……。そうだ、俺たちはこれから国王に直訴しに行くんだ。こんな宴会やってる場合じゃねえ!」
「宴会なんかとっくに終わってるっつーの。しっかりしなさい勇者!」
「えっ!?」
ここは馬獣の上。
俺はアンヌ先生の背後に、腰のところをロープでくくりつけられていた。
アンヌ先生がロープをほどく。
「休憩するから、降りてちょうだい」
「あ、ああ……」
どうやら俺が寝ている間に出発していたようだ。
すでに太陽は頭の上にあった。
「ヤッちゃん、やっと起きたの?」
「女だけでテントを片づけたり、ヤニック君を馬獣に乗せたりするの、けっこう大変だったのよねェ」
「うう、スマン……。っていうか、おまえらが無理やり飲ませるからだろ!」
調子に乗って一気飲みした俺もバカなのだが。
「まあいい。それでモナ、ここはどのへんなんだ?」
「ヤッちゃん、ぜんぜん起きないんだもん。夕方には王宮に着くんじゃないかな」
「もう、そんなところまで? しかし、ここまでよく誰にも襲われなかったな」
すると、アンヌ先生が胸を張った。
「それは、この馬獣ポイポイのおかげでしょうね。この子って、いかにも強そうだから。小魔獣や、そのへんのショボい追いはぎやヘボい強盗は、恐れをなして襲ってこないわ」
「なるほどな。しかし、先生はなんでこんなすごい馬獣を飼ってるんだ?」
「買ったのよ。ギャンブルで大勝ちしたときに、ついつい勢いで」
「本当に金遣いが粗いな……。金欠で草トーに出てた理由がわかったよ」
軽い食事を済ませた俺たちは、再び馬に乗った。
*
幸いにも、日が暮れる前に王宮が見えてきた。
宮殿の周囲には城下町が広がっていて、俺の住んでいる村とは比べものにならない数の人がいた。
夕食の食材を買い求める者、学校や仕事場から帰る途中の者、早くも一杯やり始めている者など。
町はワイワイとにぎわっている。
そんな中を進んでいくと、いよいよ目的地──宮殿に到着した。
「ここに王様がいるんだな」
「そうよ。まずは衛兵さんに事情を説明しないとね」
「アンヌ先生は勝手がわかってるみたいだけど、来たことがあるのか?」
「そりゃまあ、仕事で何度か、ね。ちょっと話してみるわ」
こういうときは大人がいてくれると心強い。
グロワール高校の教師と生徒だと話したところ、宮殿に入れてもらえることになった。
「さすがは先生だな」
「でも、『王様に直訴するのが目的だ』なんていったら門前払いされちゃうと思うから、3年C組の生徒を激励しにきたってことにしといたわ」
「なるほど」
衛兵のあとについて宮殿に入る。
中はもっと金や銀の派手な装飾がほどこされていたり、色とりどりの花が飾られていたりするのかと思っていたが、思ったほどきらびやかではなかった。
おまけに、兵隊や王族の人間たちは一様に硬い表情をしていて、今が戦時中であることを思い知らされた。
「グロワール高校の3年C組は今、この部屋で戦闘訓練中だ。小1時間ほどしたら迎えに来る」
そういって立ち去ろうとした衛兵に、俺は思わず声をかけた。
俺たちの本当の目的は先輩たちををはげますことではない。
「ちょっと待って、衛兵さん。王様に一言、あいさつしたいんだけど」
衛兵は俺をギロリとにらみつけた。
「おい、口のきき方に気をつけろ。国王殿下は、おまえたちのような庶民が簡単にお目にかかれるようなお方ではない」
すかさずアンヌ先生がフォローした。
「申し訳ございません。生徒の指導がなっていなくて。では、またあとで」
「フン」
衛兵は不機嫌そうに去っていった。
「おいアンヌ先生! 直訴する話はどうなったんだよ!」
「そう簡単に国王に会えるわけないでしょ」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「先生に考えがあるわ」
アンヌ先生がドアを開くと、そこは巨大な体育館だった。
中では数名の勇者パーティー同士で戦う、実戦さながらの戦闘訓練があちこちで行われている。
アンヌ先生は室内をきょろきょろと見渡した。
「ああ、いたいた。あっちに行きましょう」
俺たちはアンヌ先生にいわれるまま、3人対3人で戦闘中のグループに近づいていった。
6人の中でも飛び抜けて大柄な、筋肉質の少年が叫ぶ。
「トドメだ! 超電磁砲弾!」
バリバリバリッ!
まるで雷のような、強力な磁力を帯びた砲弾が相手パーティーを襲う。
プラクティス砲弾とはいえ、すさまじい威力だ。
相手パーティーは全員、一撃で気絶してしまった。
パチパチパチ、と手を叩いたのはアンヌ先生だった。
「さすがはクラスリーダーのボルテさん。あいかわらず、すごい威力ね」
「アンヌ先生じゃないですか! どうしてここに?」
「1年生を連れて、あなたたちを激励にきたのよ──」
「ありがとうございます!」
「──というのは、表向きの話」
「えっ?」
とまどうボルテに、アンヌ先生はいった。
「今から、この子たち1年生と試合をしてもらうわ!」
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