【第35話】白馬の少女
水と食糧は少し補給できたが、なにしろ徒歩での1人旅である。
背負える荷物には限界があるので、大量に持っていくことはできなかった。
「なあ、コトネ。王宮までひとっ飛びできる魔法とかないのかな」
「そういう魔法があると聞いたことはあるが、あいにく私には使えない」
「あるのかよ! 世の中は広いな。勇者パーティーを組むなら、そういう便利なスキルをもってるやつを集めたいな」
だが、現実は厳しい。
よく考えたら、俺の村から徒歩で王宮まで行った人間なんて聞いたことがないから、いったい何日かかるのかわからないのだ。
たぶん1週間も歩き続ければ着くのだろうが、先の見えない旅ほど苦痛なものはない。
「コトネ、そろそろ休憩しようか」
「あれから1時間も歩いていない」
「マジか!? なんだか、もう数時間は歩いた気分だよ。誰か俺を王宮まで運んでくれー!」
そんなグチをこぼしていたら、背後からダッカダッカと馬のヒヅメの音が聞こえてきた。
振り返ると、はるかかなたに、こちらに向かってくる影が見える。
「ウソ!? 俺ってツイてる!?」
「警戒したほうがいい。味方とは限らない」
確かにコトネのいうとおりだ。
都合よく馬に乗せてくれるとは限らないし、追いはぎや魔王の手下である可能性すらある。
目を凝らしてみると、馬は2頭並んでいた。
戦闘になった場合、2人を相手にすることになる。
俺は背負っていた赤いラケット──コトネを抜いた。
2頭の馬の影は、まっすぐこっちに向かってくる。
ただの旅人であれば、わざわざ俺のほうに向かってくる理由がない。
「コトネの悪い予感が当たったみたいだな」
「……」
しばらくすると、2頭の馬はヒヒーン、といなないて俺の目の前に止まった。
どちらも真っ白な馬だ。
おそらく食料や野営の機材などだろう──積まれた大荷物をものともしない走りっぷり。
いずれも血統のよさそうな、鍛え上げられた馬だった。
当然、乗り手の戦闘力も高いに違いない。
身構えた俺の前で、2人の旅人は、かぶっていた日よけのマントをバサリと脱いだ。
「ヤッちゃん、まだこんなところにいたの?」
「歩いて王宮まで行くなんて、無謀すぎるわねェ」
「げげっ、モナ! エルミー! なんでここに!?」
「『げげっ』とは何よ! ヤッちゃんが歩いて行ったことをエルミーさんに話したら、馬を貸してくれるって! エルミーさんの家、お金持ちだから」
「本当か、エルミー!? 助かる!」
「ええ、いいわ。でも、条件があるのよねェ」
「条件?」
「私たちを旅に連れていくこと」
「な……!?」
「モナさんには『危ない』っていったみたいだけど、この馬があれば、王宮まではそれほど危険な旅ではないはずでしょう」
「しかし……そんなことをしたら、モナもエルミーも退学になるぞ!」
すると、2人は口をそろえていった。
「いいもん」
「もちろん」
確かに王宮までの危険度は下がるだろう。
しかも、馬に乗れるのはとても助かる。
だが、着いたあとはどうなる?
2人だけを帰すのか?
俺が思考をめぐらせていると、別の馬が1頭、こちらに近づいていることに気がついた。
「コトネ、今度こそ敵かもしれないな」
「わからないが、あれはただの馬ではない。馬獣──馬と魔獣のハーフだ」
「モナ、エルミー! 戦闘の準備だ!」
「えっ!?」
俺は再び身構えた。
モナとエルミーもラケットを抜く。
馬獣は、俺たちの前まできて、静かに止まった。
大きい。
モナたちが乗っている馬の1.5倍ほどの体長がある。
「モナ、エルミー! 俺と一緒に来るってことは、こういうことだ!」
「わかってるよ! とっくに退学になるつもりで来てるもん!」
「私もよ。一緒に戦いましょう」
すると、馬上の人物は、馬上でおもむろにマントを脱いだ。
「聞き捨てならないわ」
女の声だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます