【第36話】3対1の戦い

聞き覚えのある声──それは、アンヌ先生だった。


「退学も覚悟してるですって? 教師として、聞き捨てならないわね」


「アンヌ先生! いったいなんでここに!? っていうか、なんだよこの馬獣!?」


「フフッ。目が覚めたのよ。あ、この子はペットのポイポイちゃん」


そういって、アンヌ先生は馬獣から降りた。


「目が覚めたって、どういうことだよ?」


「あなたの言葉よ。『3年A組が全滅するなんて、教師は今まで何を教えてたのか』って。まったく、そのとおりよね。私たちは机上の論理ばかりを教えてた。それもそのはず、教師の大半が実戦経験ないんだから、仕方ないわよね。だから、決めたの。私もあなたと一緒に戦うわ」


「先生……」


「いいかしら?」


ここまでいわれて、断る理由はない。


「ああ」


「ありがとう」


俺とアンヌ先生が握手をしていると、モナが不機嫌そうにいった。


「私たちはどうなるのよ! 一緒に行っていいの?」


「もう……勝手にしろ!」


「やったー! よかったね、エルミーさん!」


「うん」


旅の仲間が増えて盛り上がっていると、コトネが俺にささやいた。


「私のことはどうする?」


「……あ」


そうだ、忘れていた。


馬のおかげで旅程は短縮できたとしても、どこかで2泊ぐらいは野営しなければならないだろう。


夜になって、裸のコトネがいきなり現れたら──まずいだろ。


「ちょっと待った! やっぱダメだ! 前言撤回! みんな今すぐ帰ってくれ!」


「ハア? ヤッちゃん、今さら何?」

「なんでェ?」

「どういうことなの?」


あたりまえだが、非難の嵐である。


「えっと……みんなを危険にさらすのは……よくないかな……と」


「ちょっと怪しい。ヤッちゃん! 何か隠してるでしょ?」


「いや、隠してないよ。モナ、変なこというなよ!」


狼狽する俺に、アンヌ先生は、なぜか不敵な笑みを浮かべた。


「ヤニックさん。私たちに隠しごとができるとお思い?」


「どういうことだよ?」


「こっちは3人。あなたは1人。どっちが有利かしら?」


「や……やるってのか!? 女だからって手加減……なっ!?」


アンヌ先生は素早く俺の背後に回り込み、俺の両腕をロックした。


背中に大きな胸の感触が……。


くっ、力が抜けて抵抗できない!


「モナさん、エルミーさん、ズボンを脱がしてしまいなさい」


「なっ!? ちょ、やめろ!」


「ヤッちゃん、ごめんね。先生の命令だから」


「命令ってわりには、うれしそうにしてるぞ! やめろモナ!」


「やめない」


モナは遠慮なく俺のズボンを引きずり下ろした。


「こらーっ」


エルミーは頬を赤らめて俺の下半身を凝視している。


「こういうパンツはいてるのねェ……」


「おいエルミー! おまえ優等生だろ! この不良たちをなんとかしろ!」


「エルミーさん、やっておしまいなさい」


アンヌ先生にいわれて、エルミーは俺の下着に手をかけた。


「わーっ、わかった! 俺の負けだ! いう! いうから!」


   *


結局、俺はコトネのことをすべて白状させられてしまった。


「──というわけで3人とも、幻滅しただろ。今までのは全部、俺の実力じゃない。全部、コトネ──この赤いラケットのおかげなんだ」


すると、モナは首を振った。


「べつに、幻滅なんてするわけないじゃない。私はそのラケットに不思議な力があるって、もともと知ってたし。でも、理由がわかってスッキリしたわ」


エルミーがうなずく。


「ラケットの性能がどんなによくても、それを使いこなせるかどうかは才能しだいよねェ」


アンヌ先生も続けた。


「私もそう思うわ。それに、そのラケットを授かったからといって、命をかけて魔王に立ち向かおうと考える人間が、どれぐらいいるかしら? そのコトネって子は、きっと自分の意志であなた──ヤニックさんを選んで、ここにいるのだと思うわ」


俺は思わず鼻で笑ってしまった。

今までコトネのことを必死で隠していた自分がコッケイに思えたからだ。


「じゃあ……行くか。王宮へ!」


ちょっと情けないが、俺は馬に乗ったことがないのでアンヌ先生の後ろに乗せてもらうことになった。

馬獣ポイポイは、人間2人と旅の荷物をものともせず、軽々と大地を蹴った。

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