【第31話】だったら俺が
あれから俺とモナは快進撃を続け、まったく危なげなくコルマンドオープン選手権大会に優勝してしまった。
いや、初戦だけはかなり危なかったが。
とにかく、クラリーヌ先生のような勇者クラスには苦戦するものの、草トーレベルの選手に対しては俺のラケット──コトネは無敵だということがわかった。
大会が幕を閉じるころ、夏休みは半ばに差しかかっていた。
魔王討伐に出征した3年A組の先輩たちはどうなっただろうか。
表彰式のあと、俺とモナは学校に行って現在の戦況を聞いてみることにした。
夏休みとはいえ、きっと宿直の先生ぐらいはいるだろう。
*
「ねえヤッちゃん。優勝したのはうれしいけど、結局私、ほとんど活躍できなかったな」
「何をいってるんだ。モナがいなかったら初戦で負けてたかもしれないよ」
「あれは……! あんなの活躍のうちに入らないでしょ! みんなに裸を見られちゃって、私もう、お嫁にいけないわ! 責任とってよね!」
「はいはい。とりあえず職員室に行ってみようか」
「ちょっと、ごまかさないでよ!」
「廊下は静かに」
「もう!」
がらんとした職員室を想像していたが、ほとんど平日と変わらないぐらいの数の教師たちが出勤して、それぞれ静かに仕事をしていた。
担任のアンヌ先生もいたので、モナと一緒に声をかけた。
「あら、ヤニックさんと、モナさん。今日は夫婦でどうしたの?」
「夫婦じゃねーし!」
「もう先生! やめてくださいよォ!」
「あら、モナさんはまんざらでもなさそうね。で、職員室に何の用なの?」
「ちょっと聞きたいことがあって。っていうか、夏休みなのに、どうしてこんなにたくさん先生がいるんだ?」
「何いってるの。教師の夏休みなんて、ほんの数日間しかもらえないのよ。残りの30日以上は、二学期のカリキュラム作成やら授業の準備やらで、ちょー大忙しなんだから」
「知らなかった……。ごくろうさまです」
「で、聞きたいことって?」
「ああ、そうだった。いや、3年A組の人たちがどうなったかなーって」
俺がそういうと、アンヌ先生の顔が急にシリアスになった。
「あなた、なぜそれを? まだ一般生徒には知らせていないのに」
「生徒会長に聞いたよ」
「ああ、そっか。あなたクラスリーダーになったのよね。もう生徒会に行ったの……。じゃあ、本当のことを話したほうがよさそうね」
「本当のこと?」
「こっちに来て」
アンヌ先生はいつになく神妙な面持ちで、俺とモナを来客室に案内し、扉を閉めた。
「先生、いったい何があったんだ?」
「……3年A組は全滅しました」
「なっ!?」
「そんな……じゃあ、生徒会長は!?」
「みんな死んだわ」
「レ……レオ先輩……たち……みんな……うえええええー……」
俺だって泣きたい気持ちだ。
「敵は魔王じゃないんだろ!? 下っぱなんだろ!? なんでうちの学校の代表が負けるんだよ! なんで生徒会長までが!」
「思った以上に敵が強かったということね」
「先生! そんな……他人ごとみたいにクールにいうなよ! ここは天下の王立グロワール高校だろ! 勇者育成に特化した、エリート高校じゃなかったのかよ! 教師は今まで何を教えてたんだよ!」
「面目ない……まったく」
アンヌ先生は打ちひしがれた表情で瞳をうるませた。
「ヤッちゃん、先生を責めてもしょうがないよ」
「だけど……だけど……!」
ゴシゴシと自分で涙を拭いたモナは、気丈にも冷静さを取り戻していた。
「先生、これからどうするんですか? 勇者が全滅。わが校の代表も全滅したとなると……」
「王宮の命により、昨日、3年B組が戦地に向かった」
これには俺も驚いた。
「バカな! A組が負けたから次はB組って……安直すぎるだろ! っていうか、戦力がグレードダウンしてるし! 王宮はバカばっかの集まりなのか!?」
「私もヤニックさんのいうとおりだと思う。王宮としては世界各地に応援を呼びかけているらしいけど、どこも自分の国のことで手いっぱいらしいわ。──となると、少しでも戦力になりそうな人材を集めて戦地に送るしかない」
「じゃあ何か? 3年B組がやられたら、次はC組ってか?」
「そう。すでに3年C組は王宮で訓練を開始したわ」
「もう! バカなのかよ! 完全に負け戦じゃないかよ!」
「でも、ヤニックさん。他に方法がないのよ」
「ある!」
「えっ?」
こうなったら、やるしかない。
俺は仁王立ちして宣言した。
「だったら、俺が行く!」
「……」
「……」
アンヌ先生とモナが無言になってしまった。
「なんだよ? なんでノーリアクションなんだよ?」
「ヤッちゃん、さすがにそれは無理よ」
「ヤニックさん、冷静になって。あなたは1年G組。いくら自信があっても、王宮から勇者の称号をもらわなければ戦地に行くことはできないわ。知ってるでしょう?」
「だったら、国王に直談判するまでだ!」
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