【第20話】イチゴ100%先生

あくる日に登校してみると、不良グループのサイゼが欠席していた。

ロイホ、デニヤ、ガスートの3人も風邪気味らしく、マスクをしてせき込んでいる。

さもありなん。


朝のホームルームの時間になると、担任のアンヌ先生が現れた。


「さっきサイゼのお母さんが見えて、今日は風邪で欠席だそうです。……って、ん? ロイホ、どうしたの? デニヤもガスートも、みんなそろって具合が悪そうね」


すると、すかさずロイホが手を挙げた。


「先生。……ゲホッ。これは全部、ヤニックのせいなんです。あいつが……俺たちのラケットを池に落としやがって」


「それで、池の中にラケットを取りにいって、風邪を引いたってこと?」


「そうです……ゲホッ。俺たちは何も悪いことをしていないのに、あいつが勝手に誤解して、仕返しをしてきたんです。ヤニックは本当にヒドいやつです。今すぐ退学にすべきだと思います。ゲホゲホッ」


もちろん、誤解ではない。

俺のラケット──すなわちコトネを池に落としたのはロイホたちだ。

それはコトネ本人から聞いたから間違いない。


だが、ここにコトネに出てきてもらって証言をさせるわけにもいかないから、反論しようにも、やつらがやったという証拠がないのも確かだ。


グロワール高校の生徒にとって、ラケットは何よりも大切なアイテムだ。

証拠もなくロイホたちを犯人と決めつけて、ラケットを池に放り込んだとなれば、ただでは済まないだろう。


それでなくとも、俺は一度は退学になった身だ。

すぐさま退学処分を受けても仕方がないだろう。


アンヌ先生はいった。


「ふーん。あ、そう。じゃあ……他に何もなければ今朝のホームルームは終了するわね」


これには俺も肩透かしを食らったが、怒ったのはロイホだった。


「ちょっと先生! 『あ、そう』って! ヤニックのことはどうするんですか!? ちゃんと処分してくれるんですよね!」


「ふーん……」


アンヌ先生はロイホに歩み寄り、額に手を当てた。


「何をするんだよ!」


「どうやら、熱があるようね。きっと熱のせいで、何かへんなことを妄想してしまったのね。今すぐに早退しなさい」


「はあ!? 俺は正気だよ!」


「う・る・さ・い! 早く帰らないと、あんたこそ、風邪のウイルスをばらまいた罪で、退学にするわよ!」


「なんでだよ!」


ロイホがいくら叫んでも無駄だった。

アンヌ先生は無言のプレッシャーをかける。


「…………。ロイホ君、先生のいうことが聞けないの?」


「ちっ、覚えてろ!」


俺に捨てゼリフを吐いて、ロイホは帰っていった。

アンヌ先生は、まるで何もなかったかのように話を続けた。


「じゃあ、みんな、今日も一日がんばりましょう! ……あ、そうそう。今日から戦術実技の先生が、都合により新しい先生に替わるから、よろしくね」


アンヌ先生が姿を消すと、すぐに俺の周りに人だかりができた。


「アンヌ先生、完全にヤニック君の味方だったね!」

「ロイホのやつ、ざまあみろって感じ!」

「やっぱ正義は勝つのよね! ヤニック君ステキ!」


「あ……ありがと。だけど、もう1時間目が始まるぞ。新任がコワい先生だったら、ドヤされるぞ」


「きゃーっ、そうだった!」

「でも、コワい先生だったらヤニック君に守ってもらうもん!」

「ずるーい! 私も!」


やれやれ……。


実際のところ、新しい先生って、どんな先生なのだろうか。


先週まで戦術実技を担当していた先生は、男性ホルモンまる出しの、クマみたいな剛毛が全身に生えている教師だった。


戦術実技は実戦形式の授業だし、おそらく同じように戦闘経験が豊富なコワモテの先生なのだろう。


   *


俺たちは体育館に移動した。

今日の戦術実技の授業はここで行われる。


「どんな先生かなー?」

「やっぱクマとかゴリラとか、そっち系じゃない?」

「意外と、さわやか体育会系だったりして!」


そんなふうな予想を立てていると、噂の新任教師が現れた。


「えっ?」

「はっ?」

「何?」


どういうことだろうか。

理解不能な状況に直面した俺たちは、ただ硬直して先生の言葉を聞いた。


「みなさん、おはようございます。あたくしはクラリーヌ。12歳です。よろしくお願いします」


みんなの前に現れたのは、身長140センチたらずの細身の女の子だった。

いちおう、勇者っぽくラケットを握っているが、よく見ると、子ども用のミニサイズのラケットである。


妙に言葉遣いはていねいだが、ピンク色のミニスカートや、髪型がお下げ髪のせいもあって、実年齢よりさらに幼く見える。


「……」

「……」

「……」


「えっと……みなさん、どうしたんですの? おとなしい生徒さんたちですね」


たまらず、クラスリーダーを務める優等生──すでにF組への昇進も決定しているエルミーが発言した。


「新任の先生って、クラリーヌ先生のことですか?」


「はい、そうです。よろしくお願いしますね」


「は……はあ」


「じゃあ、さっそく授業をはじめますね。まずは準備体操から。足を広げてヒザの屈伸を……」


といいながら、クラリーヌ先生は大きく開脚した。


「あ」

「あ」

「あ」


みんなの視線が一点に集中する。


「えっ?」


そこで冷静にツッコんだのはエルミーだった。


「先生……パンツが丸見え……です」


ミニスカートで思いっきり開脚すれば、当然そうなる。

ちなみに、イチゴ柄だった。


「いやーん!」


クラリーヌ先生はしゃがみ込んでしまった。


大丈夫なんだろうか……。

ここって確か、勇者育成のエリート高校だったよな。

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