【第19話】ロイホの動機

不良4人組のボス格、ロイホは俺にいった。


「貧乏人は哀れだな。たかがラケットを必死になって探すなんてな」


するとモナがいった。


「ひどいことをいわないで! あなたの誘いなんか受けなくて、正解だったわ!」


いったい何の話だろうか。

どうやらモナはロイホと面識があるようだ。


「おいモナ、何の話だ?」


「ヤッちゃん……。実はこの間、ロイホに告白されたのよ」


それを聞いていたロイホは鼻で笑った。


「フン、ちょっと可愛いから俺様が声をかけてやったのに、断ったりするから彼氏が不幸な目にあうんだよ」


「なんですって! やっぱり、あなたたちがラケットを!」


「さあ? なんのことだ? 俺はバチが当たったといってるだけだよ」


ロイホはあくまでもシラを切り通すつもりらしい。

悪事が学校に知れたら、停学か退学になるのは間違いないから、簡単には白状しないだろう。


しかし、俺はこいつらが犯人だということを知っている。


「今さらシラを切っても無駄だ!」


「何か証拠でもあるのか?」


「証拠なんかいるか! もう許さん! モナ、砲弾を持ってるか!?


「持ってないわよ! っていうか、戦っちゃダメよ! 証拠もないのにトゥーネスで人を打ったりしたら、また退学よ!」


するとロイホが笑った。


「はっはっは! おまえのヒョロヒョロ玉が俺たちに当たると思ってるのか? それに、見ろ。1対4で勝負になるのか?」


「!」


いつのまにかロイホと3人の取り巻きは、それぞれラケットと砲弾を用意していた。


モナは今、ラケットすら持っていない。

まさしく1対4の状況だ。


「……いや。ヤニック、おまえのラケットはもう使いものになるまい。実質、0対4の戦いだな。笑えるぜ!」


「あなたたち、卑怯よ!」


すると、ロイホは高笑いをしながらいった。


「面白いことをいう女だ。トゥーネスっていうのは、相手の弱点を狙って戦う、卑怯な競技だろ。そんなことも知らないのか?」


「違うわ! トゥーネスは、対戦相手と心を通わせる競技よ! あなたは何もわかってない!」


「きれいごとをいうな。トゥーネスは魔物を殺すために編み出された格闘技だ。まあ、いずれにせよ、彼氏がボコボコにされるのを見れば、考えも変わるだろう」


俺は空を見上げた。

まもなく日没だ。

もう時間がない。


「おいロイホ! さっさと勝負をつけるぞ! いつでも打ってこい!」


「よかろう。おまえら、同時にいくぞ!」


バシュッ!


まさに「卑怯」を地でいくロイホらしい戦い方だ。

4人同時に砲弾を打ってきた。


俺はラケットにささやいた。


「コトネ、これはおまえの仕返しだ! 好きなところをねらえ!」


「わかった」


ババババッ!


俺が手にしている赤いラケットは、4つの砲弾すべてを見事に弾き返した。


次の瞬間、砲弾は4人の手に命中。


「ぎゃっ」

「ぐわっ」

「なんだ!?」

「いてえっ」


悲鳴ともに4本のラケットが地面に落ちた。


ロイホが「なぜだ! あのラケットはもう使いものにならないはずなのに!」と悔しがっている間に、4つの砲弾は空高く飛び、落下してきた。


──4本のラケットを目がけて。


砲弾に強く弾かれたラケット4本が、空高く舞う。

そして、すべて池の中に落ちた。


しかも、俺のラケットが落ちていたのと同じ、池の中央に。


「バッ……バカな!」

「ラケットが!」

「濡れちゃった!」

「どうやって取る!?」


ロイホと取り巻きたちは、一様に慌てふためいている。


「ラケットが使いものにならなくなる前に、がんばって取るんだな。そんなに水は冷たくないから安心しろ」


俺がいうと、ロイホは叫んだ。


「絶対、先生にチクってやるからな! 覚えてろ!」


「どうぞ、ご自由に。俺は学校に頼まれて復学しただけなんだ。いつ退学になったって構わないよ」


「チッ……!」


さすがのロイホも言葉を継ぐことができなかった。


「さあ、コトネ帰ろう」


「う……うん。じゃあ、カバンを取ってくるね」


コトネが教室に向かって走り出した直後、赤いラケットがピンク色に輝き出した。


「おっと……着るもの、着るもの……」


ふと見れば、ロイホたちが懸命に池の中を泳いでいた。


「がんばれよ、アウトロー諸君。じゃ、ちょっと失礼して……と」


脱ぎ捨てられていた彼らの制服のうちで一番サイズが小さそうなものを選ぶ。


少女の姿に変容する寸前のラケットのそばに置いて、俺はそれに背を向けた。


しばらくすると、背後でその服を着ようとしている衣ずれの音がしたので、俺は声をかけた。


「コトネ、本当になんともないのか?」


「ええ、問題ない。私は帰る」


振り向くと、男子の制服を身につけたコトネがいた。


「そうだね。変容して早々で悪いけど、もうすぐモナが帰ってくるから、早く帰ったほうがいい」


コトネが姿を消すと、ほどなくしてモナが戻ってきた。


「少し冷え込んできたな。帰ろうか、モナ」


「うん!」


日没して間もない夕焼け空には、ロイホのくしゃみと、取り巻きたちの叫び声が鳴り響いていた。


「へーっくしょい!」

「ラケット無事でよかった!」

「あれっ!? 俺の服がないっ!」

「知るか!」

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