【第17話】コトネをさがせ!

実験室に到着した俺は、G組のアウトローたち──ロイホ、デニヤ、ガスート、サイゼの姿を探した。


4人とも、いない。


そのとき教師が入ってきて、始業の鐘をカランカランと鳴らした。


「ヤニック君、席につきなさい」


「いや……ちょっと……」


「どうした?」


そこに、ロイホたち4人組が教室に入ってきた。


当然だが、教師に叱られる。


「おい、おまえたち。遅いぞ!」


「すみませーん」


ロイホたちは悪びれもせずに、自分の席についた。


そして、教壇の横で突っ立っている俺を見て、ニヤニヤと笑った。


間違いない。こいつらだ。

俺は先生やクラスメイトたちの前で名指しした。


「ロイホたちに聞きたいことがある。俺のラケットを知らないか?」


「ハア……? 知らないよ。おまえたち知ってるか?」

「さあね」

「知らないなあ」

「家から持ってくるの忘れたんじゃないの?」


予想はしていたが、ロイホたちは口裏を合わせたみたいにうそぶいた。

続けてロイホは吐き捨てるようにいった。


「そんな大事なものをなくすなんて、バッカじゃね?」


あたりまえだが、これ以上、犯人自身に聞いても時間の無駄だ。


「先生、俺、探しに行きます」


「おいおい、授業が終わってからにしなさい」


「授業は欠席にしといてください!」


そう叫びながら、俺はもう駆け出していた。


今日は夕方まで授業が詰まっている。

放課後まで待つ、なんて悠長なことはいっていられないのだ。


ひとまず俺は1年G組の教室に戻って、くまなく探した。

どの机にも、ロッカーにも、入っていない。


俺は3時間目以降の授業もすべて欠席して、すべての教室や廊下を探し続けた。

しかし、ラケットは見つからない。


昼休みにB組のモナに声をかけると、午後からは授業を休んで捜索に協力してくれることになった。

やはり、持つべきものは幼なじみだ。


「ねえ、ヤッちゃん。校舎の中にないとなると、探すのはかなり大変よ。なにしろグロワール高校の広さは国内でもトップクラスよ。校庭が4つ、運動場が3つ、体育館も3つ、他にもプールや池とか食堂とか……。ラケットを隠そうと思えば、隠す場所なんて、いくらでもあるんだから」


「でも、探すしかないだろ」


「それにしたって、もうちょっと人手が必要よ」


「こんなことを頼めるような相手なんて、モナ以外にいるわけないだろ。みんな授業があるんだぞ」


「そ……そうなの? じゃあ、私のクラスメイトに頼んでみましょうか」


「なるほど。……いや、やっぱりダメだ。授業をサボってまで見つけようとするなんて、『きっと何かある』って、みんなに怪しまれるに決まってる」


「あのラケットの秘密を知られたくないってわけ? ヤッちゃんが使うと、確かにすごい性能を発揮するラケットだけど、そこまで秘密にしなきゃいけないかな?」


問題はそこじゃない。

日没と同時に、全裸の女の子になるんだよ!


みんなで探してる最中に変容したらどうするんだ!

……とは、いえるわけもなく。


「とにかく、俺にはおまえしかいないんだ」


「えっ?」


なぜかモナが頬を赤くしている。

微妙に何か誤解されたようだが、まあいいか。


「モナ、2人で校内をすべて探すのは無理だ。あいつらが隠しそうな場所を推理して、捜索範囲を狭めよう」


「そうね。でも、不良連中が隠しそうな場所ってどこかしら?」


「俺はロイホたちがふつうの場所に隠すとは思えない」


「ふつうじゃない場所って?」


「あいつらの目的は俺を困らせることだ。すぐに見つかる場所には隠さないってこと。もしかしたら……最悪もう、壊されてしまっている可能性もある」


そうなったら、コトネはどうなってしまうのだろうか。

バラバラ死体で現れるのか……!?


いや、想像したくない。


「なんで彼らはそんなにヤッちゃんを困らせたいの?」


「俺が復学したり、クラスの女子にチヤホヤされたりしてるのが気に食わないんだろ」


「クラスの女子にチヤホヤ!? ちょっと何? そんなの聞いてないわよ!」


「なんでおまえに報告しないといけないんだよ」


「えっ……あっ、まあ、そうだけど」


「とにかく、俺が困るような場所を探すしかない」


「ロイホって、そんなに悪い子なの? 私には、そうは思えないんだけど」


「おまえはクラスが違うから知らないだけだ。あいつと取り巻きの3人は、かなりタチが悪い連中だ」


「そうなんだ……。で、ヤッちゃんを困らせる場所ってどこ?」


「たとえば……そうか! あそこだ! 行くぞ!」


「えっ、どこに!?」


「焼却炉だ!」


俺とモナは走った。


到着して、ゴミ焼却炉の中を開けてみると、中のものはすでに灰になっていた。


「ヤッちゃん、焼却炉の周りには何もないし、中は灰しかないよ。燃やされちゃったのかな」


「……わからない」


俺はぼう然として、その場に立ちすくんだ。


もしも、ラケットが燃やされてしまったとしたら。

それはすなわち、コトネの死を意味する。


俺は自分の中に、ロイホたちに対する殺意の炎が芽生えるのを抑えきれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る