【第16話】なぜかモテモテ
1時間目は歴史の授業だった。
トゥーネスやラケットの歴史や起源について学ぶ内容。
……なのだが、遺跡や古い書物を分析した学者がテキトーに推測したことを、延々と聞かされるだけ。
ただし学者によって意見は分かれるので結局、トゥーネスのはっきりとした起源はわからないというのが結論だった。
「オイオイ……今までの長い話はなんだったんだよ」
思わずポツリとツッコミを入れたのを歴史の教師に聞かれてしまい、一瞬にらまれた。
やがて休み時間になると、俺の前には例のバスト3が集まってきた。
G組が誇る美少女アイドル──マリス、ノン、アイヴォンである。
「戻ってきてくれたのね! マリスうれしい!」
「これでアンヌ先生に成績を上げてもらえる~!」
「しっ! ノン!」
やれやれ。
アンヌ先生とはそういう契約だったのか。
マリスは不思議そうな顔でいった。
「でも、どうしてアンヌ先生は、あんなにヤニック君を復学させたがったんだろう? ヤニック君、アンヌ先生にワイロでも渡した?」
「渡すか! ……じゃあ3人とも、理由を聞いていないのか?」
すると、バスト3は一様にコクリとうなずいた。
考えてみれば、当然のことだ。
アンヌ先生は学校に内緒で草トーに出場しているのだから。
ここは適当にごまかしておこう。
「そっか。なんでだろうな。俺にもわからないや。もしかして隠れた才能を見抜いてくれたのかも」
「そういえばヤニック君、意外とツッコミの才能あるよね。さっきのノン、笑っちゃった」
「ああ、歴史の授業中のやつか? つい口に出ちゃったんだよ。昔のことはタイムスリップでもしないと、本当のことはわからないからな。だから歴史の授業って俺、時間の無駄だと思ってる」
「はっきりいうね。かっこい~い!」とアイヴォン。
気がつくと、俺の周りにはバスト3以外の女子たちも何人か集まっていた。
「ヤニック君って面白いんだね」
「アンヌ先生、見る目があるよ!」
「ねえねえ、ヤニック君のファンクラブ作ろうよ」
などなど、いつのまにか俺の評価が上昇している。
こんなにクラスメイトと打ち解けられるなんて、思ってもみなかった。
復学させてくれたアンヌ先生に感謝しないといけないかもしれない。
「ごめん俺、トイレ」
「えーっ、もっと話しましょうよ!」
「私も一緒に行く!」
「アホか!」
女子たちを振り切ってトイレを済ませる。
次の授業は実験室で行う回復魔法の授業だ。
歴史はいらないと思うが、魔法の授業はためになる。
いつか勇者になったとき、魔王との戦いを少しでも有利に進めようと考えると、グロワール高校に復学して、魔法の知識を頭に入れておくのは正解である。
回復魔法の教科書を持って実験室に向かおうとして、気がついた。
「おっと……そうだ。ラケットも持っていこう」
魔法の教師には何か小言をいわれるかもしれないが、なにしろ、あのラケットはただのラケットではない。
紛失したら、取り返しのつかないことになる。
窃盗事件というより、この場合は少女誘拐事件だ。
教師には、「じっちゃんの形見なので」とかなんとか、いっておけばいいだろう。
だが、ラケットケースを開いて、俺は驚愕した。
「ない!」
ラケットがない。
コトネ……!
俺は心の中で彼女の名を叫んで、周囲をきょろきょろと見回した。
次の授業は実験室で行われるため、クラスメイトの大半はすでに姿を消している。
俺は全力で頭を回転させた。
今朝は間違いなくラケットを持ってきた。
1時間目の授業までは、ケースの中に入っていた。
そのあと……そうだ。
休み時間にトイレに行ったすきに、誰かが盗んだのだ。
いったい誰が……?
脳裏には、鬼のような険しい目で俺をにらみつけていた、あいつらの顔がよみがえってきた。
「くっ……。油断した!」
教室には、すでに彼らの姿はない。
俺は実験室に走った。
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