【第15話】久しぶりの登校
翌朝、俺はモナと一緒にグロワール高校に向かっていた。
「ヤッちゃん、トゥーネスで序列が決まるような世界には二度と戻りたくないって、いってなかったっけ?」
「まあね。だけど、次の草トーまでヒマだし、このラケットの力を学校で試すのもアリかなと思って」
俺は背負っているラケットを指さした。
このラケットに不思議な力があることを知っているのはモナだけだ。
だが、夜になると少女に姿を変えることは、モナにも内緒である。
「そういうことか。ヤッちゃんのヒマつぶしにつき合わされる生徒たちはかわいそうだけど、ヤッちゃんが復学してくれてよかったわ」
「まだ復学できるって決まったわけじゃないよ」
「えっ、そうなの?」
「アンヌ先生が校長に頼んでくれるっていってたけど、一度は俺、断っちゃったしな」
学校に到着すると、俺はとりあえず職員室に向かった。
担任のアンヌ先生はすぐに見つかった。
長い黒髪がひときわ目立つ美人教師は、同僚の教師と談笑している。
「アンヌ先生!」
「あら、ヤニック君! どうしたの? もしかして気が変わった?」
「まあね。やっぱり復学しようかなって」
「あらあらあら。あなたも男の子だったのねえ」
どうやら俺がバスト3の色気に落ちたと勘違いしているようだが、面倒だから、そういうことにしておくか。
「それで先生、俺はどうすればいい?」
「手続きはぜーんぶ、私がやっておくわ。とりあえず、あなたの気が変わらないうちに校長の了解をもらってくるわね。そうねえ……ちょっと、1分ほど待ってて」
「1分!?」
アンヌ先生は俺を職員室に残して行ってしまった。
退学になった者をすぐに復学させるなんて、おそらく特例中の特例に違いない。
たったの1分で、校長先生を説得できるのだろうか。
校長先生になるほどの人だから、きっとクソ真面目な人に違いない。
そんな人が例外を認めてくれるものなのだろうか。
……と考えているうちに、もうアンヌ先生は戻ってきた。
「お待たせ。オッケーよ。今日から出席する?」
「オッケーって、もう校長先生の了解がとれたの?」
「うん」
「いったいどうやって……」
俺の言葉をさえぎるように、アンヌ先生は自分の胸を両手でプルルンと揺らした。
ああ、そういうことか。
俺にやったのと同じ手を使ったわけだ。
どうやらこの先生、色じかけで世の中を渡っているらしい。
人間的にかなりヤバい先生だな。
「でも、心配しないで。お触りはさせてないからね」
「いや、ぜんぜん心配してないけど」
「ウフフ。ヤニック君、さっそく今日から出席してもいいよ。どうする?」
「じゃあ、せっかく来たから出席するよ」
「いいわ。ただし、校長先生は復学を許してくれたけど、特別扱いはしないようにいわれたわ。つまり、ヤニック君にはまたG組に入ってもらうわけだけど、いいかしら?」
「ぜんぜん、いいよ」
「オッケー。それじゃ、一緒に教室に行きましょう」
俺とアンヌ先生は1年G組に向かった。
到着すると俺は、まるで転校生がそうされるみたいに、アンヌ先生に紹介された。
「みなさん、おはようございます。今日からヤニック君がこのクラスに戻ります」
当然だが、教室は騒然となった。
「先生、どうして!?」
「最下位になったら強制退学じゃないの!?」
「なんで戻れるの? なんでなんで!?」
アンヌ先生はパンパン、と手を叩いた。
「みんな、静粛に。ヤニック君には才能があり、また、最下位決定戦にもアンラッキーな要素があった。したがって、今回はわが校に残ってもらいたい──。これは校長先生が決めたことよ。さあヤニック君、席について」
表面上は静かになったが、クラスメイトたちの頭の上には「?」マークが見える。
それはそうだろう。
退学処分になった生徒が恩赦で2週間後に復帰するなんて、聞いたことがない。
机とイスは以前のまま残っていたので、俺は自分の席についた。
席に向かう途中、クラスメイトたちの表情をチラチラと確認した。
みんな一様に、腑に落ちない顔をしている。
そんな中、俺を退学に追いやったアホのザコタは、張り詰めた空気を無視して微笑んでいた。
「おかえり~」
「あ……ああ。ただいま」
やっぱりアホは何を考えているのかわからない。
それよりも気になったのは、教室の最後部に陣取っている男子4人だった。
ボス格のロイホ、そして彼の「みこし担ぎ」をしている取り巻きのデニヤ、ガスート、サイゼだ。
いわば1年G組のアウトローたちである。
その4人だけは、鬼のような険しい目で、俺のことをじっと見つめていた。
中でもロイホの瞳には、憎しみにも似た色が宿っていた。
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