【第14話】バスト3の誘惑

元クラスメイトの女子たちに、俺は思わずたずねた。


「なんでここに!?」


3人の少女の名は、マリス、ノン、アイヴォンという。

歌や踊りが上手で、放課後によく校庭で歌を披露しており、1年G組のみならず、グロワールの全校男子生徒からアイドル級の人気を誇る。


バスト3の中でリーダー格のマリスが答えた。


「ヤニック君、すっごく強くなったんだって? マリスたち、学校に戻ってくれるようにお願いにきたの」


なるほど。

アンヌ先生の差し金か。

こんなに早く3人を招集して、俺のところに差し向けてくるとは、なんという早わざだ。


「悪いけど俺は……」


断ろうとした俺の右手を、いきなりギュッと握ったのは、色白の2人とは対象的に小麦色の肌をしたノン。


「ヤニック君ったら、短い間に立派になっちゃって。あたしビックリ」


続けて左手をやさしく握ってきたのは、童顔の3人の中でも、特に幼い印象のアイヴォン。


「草トーに優勝したんだって? ステキ!」


さらにマリスが俺の背後に回り込む。

両手を塞がれた俺をハグするような格好で、家の中に引きずり込んだ。


「まだご両親は帰っていないみたいね。ちょっとマリスたちとお話をしましょうよ」


「ちょ……待てよ!」


俺の言葉なんかお構いなしに、3人は俺をベッドに押し倒した。

ベッドの上には俺とバスト3、そしてラケットすなわちコトネが乗っている。


倒れた俺の太ももをさわさわと撫で始めた子がいる。

アイヴォンだ。


「それほど筋肉質ってわけじゃないのね。やわらかい太もももステキ!」


「や……やめろって! 変な触り方をすんな!」


「あら、変な気分になっちゃった?」


「なってない!」


すると、いつのまにかノンも添い寝をしていた。


「あたしはちょっと、変な気分になってきたけど」


驚く俺をよそに、マリスは俺の頭を自分のひざに乗せた。

ひざ枕!


「今日は試合で疲れたでしょう。マリスたちが癒やしてあげるね」


「ちょ……やめ……」


俺も年ごろの男だ。

こんな状況で理性を保つことは不可能である。

ハニートラップだとわかっていながら、徐々に、おかしな気分になっていく……。


そのとき、コトネのささやき声がした。


「ご両親が帰ってくる」


いったいラケットのどこに耳があるのか不明だが、コトネは耳がいい。

おそらく本当だろう。


コトネの声のおかげで俺は我に返った。


「うわーっ、やめろ!」なんとか理性を取り戻した俺は、ベッドから飛び起きた。「こんなことをしても無駄無駄無駄! 俺は高校には戻らない! アンヌ先生にも、いっといてくれ!」


すると3人は、最後の手段とばかりに、並んで土下座を始めた。


「復学してください!」

「お願い、戻って!」

「なんでもします!」


「今は時間がない! とにかく帰ってくれ!」


俺は急いで3人を家の外に追い出すと、ドアにカギをかけた。


自分の部屋に戻って窓の外を見る。

コトネのいったとおり、こちらに向かって歩いてくる両親の姿が見えた。


俺はバスト3の姿が見えなくなったのを確認してからラケットを持って家を飛び出す。

そして、偶然を装って両親にあいさつをした。


「あ、2人とも、おかえり!」


「あらヤッちゃん。こんな時間にどこ行くの?」


「ちょっと壁打ちしてくる。すぐに帰るよ!」


俺は母親にそういって、コトネを家に送り届けるために走った。

走っている最中に日没時間が訪れ、ラケットがピンク色に輝き始める。


こんなこともあろうかと、今日は母親の服を持ってきてある。

俺は手早く木陰にラケットと服を置き、背中を向けた。


しばらくすると、コトネの声がした。


「服を着た。ここからは1人で帰れる」


「いや、コトネの村まで送っていくよ」


「……。好きにすればいい」


俺とコトネは夜道を2人で歩いた。


「なあ、コトネ。さっきはありがとう」


「なんのこと?」


「3人に襲われたとき、声をかけてくれたこと」


「ああ、そのこと」


もしも、あそこでコトネが声をかけてくれなかったら。


理性を失った俺をバスト3が好きなようにアレしているところに両親が帰ってきてしまい、そこにラケットから変容した全裸のコトネが現れて……。


うげっ。

考えただけで身の毛がよだつ、おぞましい状況である。


「ああ、本当に助かったよ」


「そんなことより、ヤニック」


「なんだ?」


「さっきはどちらでもいいと答えたけれど、復学してみるのも、案外いいかもしれない」


「どうしてだ?」


「単に確率の問題だ。勇者になるためには、実力だけでなく運も必要だ。グロワール高校で主席になって勇者の資格を得る道も、いちおう残しておいたほうが得策かもしれない」


「うーん……。確かに一理あるけど……」


しかし、あれだけ拒否っておいて、今さら復学しますなんて、アンヌ先生にいい出しにくい。


そんなことを考えていたら、いつのまにかコトネが住んでいる村に到着していた。

いつものようにコトネと別れ、俺は自宅に向かって夜道を走った。


ああ、こんなことなら、アンヌ先生の誘惑に身を任せればよかったかも……。

みたいな、アホな妄想をしながら。

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