第14話 一年後
一年後、バレン様との恋愛としての交際を経て、めでたく結婚した。
今は庭が広めの新居で、平和に毎日楽しく優雅に過ごしている。
『ブレスレット公爵令嬢が一般男性と婚約』と噂が広まってからは国が少し変わった。
今まで一般市民は貴族相手に求婚は当然、恋愛すら認められなかったのだが、勇気を出して貴族にアピールする者が増えてきたらしい。
もしかしたら、貴族と平民の大きな格差も緩和されていくのかもしれない。
変われたのは私たちもだった。
「デースペルさん、今日も庭の果実や野菜の手入れと、部屋の掃除までありがとうございました」
「いえ、こちらこそですよアエル様」
結婚前、諜報部隊の力でデースペル元伯爵夫妻と、レウジーン夫妻を発見してもらい、王都へ連れてきてもらった。
彼らは働き場所もなく、飢えを凌ぐために必死だったそうだ。
しばらくの間は近くの宿を提供していたのだが、今は両夫妻を使用人、世話係として住みこみで雇っている。
「今更なんですがアエル様……」
「なんでしょうか」
「バカ息子のせいで多大な迷惑と苦痛を与えてしまったことは、どんなに謝罪しても足りません。それなのに私たちを拾ってくださるなんて……感謝しかありません」
「そんなことはありませんよ。デースペルさんの真面目さでこの家も常に綺麗に保たれていますし、奥様の料理も毎日満足しています。それに、レウジーン夫妻のおかげで、こうやって庭に葡萄の楽園を移植してくることもできたわけですし」
この人たちを雇ったおかげで私とバレン様の生活は充実している。
さらに、庭を私の大好きな葡萄を収穫できる環境に変えてくれたのはレウジーンさんなのだ。
「そう言っていただけるのはアエル様くらいです。ですが、この温情を大事にし、末長くお役に立てるよう尽くさせいただきたいと思っています」
「そんな、大袈裟ですよ」
「アエル、そこにいたのか。大事な報告がある!」
「どうしたのですバレン様? デースペルさん、一旦失礼しますね。しっかり休んでくださいね」
デースペルさんが深くお辞儀をしているのを背に、私とバレン様は二人の部屋に向かった。
♢
「実はな、国王陛下に呼ばれてな、爵位を授与したいと言われた」
「まぁ」
「少しは驚いてくれよ」
「バレン様ならそうなって当然かと思っていましたから……おめでとうございます!」
「だが断った」
「そうですか」
「少しは驚いてくれよ」
「同じことを繰り返しで言いますけど、バレン様なら断るだろうなと思っていましたので。それに爵位を貰えば今の生活のようにはいかなくなりますよ」
「あぁ、自由が制限されるからな。それにしてもよく見抜いたな。ついに俺の推理力を吸収したのか?」
「そうじゃないですけど、愛する人と毎日一緒にいたら、考えそうなことはなんとなくですけどわかりますよ」
「そうか、実は俺も最初からアエルのことは推理よりも愛情で行動が読めていたのだ」
「あら、それは初耳ですわ」
毎日のように嬉しい言葉や仕草を言ってくれて、こうなってしまうと堪らず抱きついてしまう。
二人でいる時は公爵令嬢としてではなく、一人の女になってしまっていた。
だって、私たちの結婚は政略結婚ではない。
お互いに愛し合っての恋愛結婚だからこそ、こういう時間が沢山あっても良いんじゃないかと思う。
時には言い争いや喧嘩もしてしまうが、時間が許す限り私たちの愛はさらに深くなっていくだろう。
これからも私は幸せに暮らしていく。
バレン様とともに。
婚約者がパーティー中に幼馴染と不倫しているところを目撃しましたので、知人の諜報部隊が全力で調査を始めました よどら文鳥 @yodora-bunchooo
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