第24話 アディリアはルカーシュを不幸にする存在か?
つい最近までのアディリアの学園生活は、常に一人で寂しものだったのかもしれない。だが、今はそれが懐かしい……。
「リア! お茶会から帰る時のお前の情けない顔は酷かったぞ?」
「確かに……。あれは笑顔というよりは、顔が引きつっているだけでしたね」
何も知らないアーロンとエルシーナから揶揄われるとは……。
(いやいや、待て待て。二人の距離が近づいている……。これはまずいわ、エルシーナ様が地獄へ真っ逆さまに落ちてしまう!)
「アーロンの女癖の悪さに(知らないけど)、ロスリー殿下は手を焼いているって言ってたけど?」
アーロンは「ウッ」と息を飲み、エルシーナは白けた視線を向けている。
この路線で二人の距離を離していくのがよさそうだと、アディリアの手応えはバッチリだ。
(エルシーナ様、アーロンとは絶対に、お互いを信頼し合う関係にはなれませんからね!)
その日もアディリアはいつもの場所で昼食を食べていた。
エルシーナが食堂に誘ってくれるが、やっぱり怖くて足を踏み入れることはできない。
のんびりと人目を気にせず、一人で食べられるこの場所が一番なのだ…………。
「ねぇ、アーロン。何度も言っているけど、私は一人になりたくてここに来ているのっ! 悪いけど別の場所に行ってくれない!」
「どうだ? 兄上はいい男だっただろう? 結婚する気になったか?」
(全然人の話を聞いていない……。ルカ様とアーロンの愛の協力者になろうという私に対する態度じゃないよね?)
「あんなにやさしい人はいないと俺は思うぞ? 俺たち家族は複雑でな、その皺寄せを一番喰らっているのが兄上なんだ。それなのに文句も言わずに、自分は一歩引いて我慢ばかりしている」
「そう思うなら、迷惑ばかりかけるのやめなよ。ロスリー殿下の役に立てるように生まれ変わりな……」
「生まれ変わる必要はないな。俺は兄上が一番欲しいものを手に入れることを応援している」
そう言ったアーロンは、珍しく真剣な表情でアディリアを見る。
「八年前に会っていたって話は聞いたよ……」
「聞いたのはそれだけじゃないだろう?」
いつものアーロンなら揶揄ってニヤニヤしているところだが、変わらず真剣な表情のままだ。ゆる~いアーロンしか見てこなかっただけに、急に真面目になられると怖い。
おまけに「兄上の気持ちを聞いたんだろう」と、怒ったような顔で詰め寄ってくるのだからなおさらだ。
「……気持ちは聞いたけど、八年前の話だよ、ね?」
アーロンの目が冷たすぎて、裏山に霜が下りそうだ……。
「そんな訳ないだろう!」
いつものヘラヘラとした適当な態度とは違うアーロンの気迫に、アディリアは圧倒されていた……。
「本来なら兄上は、望めば手に入らないものは無いんだ。王位でさえ、すぐに手にできる。それなのに、争い事を避けるため全てを諦めてきた人だ。そんな人が唯一望んだのが、アディリアだ。諦めながらも諦めきれずに八年も想い続けてきたんだ!」
その気持ちはアディリアにだって分かる。
ルカーシュの婚約者はフェリーナだと思っていたのに諦められなかった。今だって、ルカーシュの心がアーロンにあるのに諦められない……。
「アディリアは俺とルカーシュのために矢面に立ってくれるというが、正直その気持ちは、俺もルカーシュも辛い」
「どうして? だって、ルカ様を守るためには必要なことでしょ?」
アーロンは困ったように、苛立ったように、短い金髪をかき乱す。
「アディリアは馬鹿だけど、いい奴だ。ルカーシュにとっても俺にとっても大事な存在だ。そんな子を利用して自分達だけ幸せになるのって、きつい……。俺とルカーシュはこの先一生、『アディリアの幸せを奪った』という罪を背負っていくのか? アディリアは俺達に罰を与えたいのか?」
「罰を与えたいなんて思ってないよ! 私はルカ様の側にいたくて、ルカ様を守りたいだけだよ」
「それが重いんだよ……。アディリアは一生愛を乞い続け、ルカーシュは一生愛を返せないことを苦悩するのか? 俺達に、アディリアは重すぎるんだよ。ルカーシュの妻は愛人でも作って自分も楽しくやってくような女の方が、丁度いい」
アディリアは、何も言い返せなかった……。
ルカーシュの宣言通り、忙しさが増して全く会えない日々が続いている。会って話さなくてはと思うのだが、答えの見えないアディリアには何を言えばいいのか分からない……。
「アディリアは、重い」というアーロンの言葉が、いつも頭の中をグルグルと回り続けている。
(私はルカ様を不幸にする存在なの……?)
あの裏山での出来事から、アーロンも気まずそうにしていて、アディリアを揶揄ってくることもない。
エルシーナとも距離を取ってくれているので、アディリアが邪魔に使命を燃やす必要もない。
マナーの特訓と勉強の穏やかな日々なのだが、穏やかだと逆に色々と考えてしまう。だから必死に自分の心を閉じて、今できることだけに集中した。
問題の解決を先送りにしただけの現実逃避なのは分かっていたが、怖くてパンドラの箱を開くことができない。だって、開いたら最期、箱には一番受け入れたくない答えしか残っていないから……。
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読んでいただき、ありがとうございました。
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