第20話 第二王子降臨

 遠くにサイラス公爵と共に、背の高い二人が歩いてくるのが見えた。

 エルシーナの緊張が増していくのと比例して、二人の王子はどんどん近づいてくる。


 にこやかに登場したアーロンは、しっかり王子様の仮面を被っていいた。隣にいる面食い(確定)のエルシーナがポーっと舞い上がっているのが見なくても分かる。


 ロスリーは兄弟だけあって、アーロンとよく似ている。髪の色はアーロンと同じで光に溶ける金色だが、ロスリーの方が長くオールバックできちんと整えられている。アーロンの青さより灰色がかった切れ長の瞳は、知性を感じさせる。

 とても整った容姿で聡明な印象を与える人だ。

 歩き方や挨拶の仕方にも無駄がなく、生真面目さを感じるところが『華がない』と言われるのだろうとアディリアは分析した。


 四人がテーブルに着くと、公爵は「ごゆっくり、楽しんでください」と挨拶をして去って行った。

 ついにお見合い開始だと、アディリアは自然と気合が入る。


 仕方がないことだが、アーロンとエルシーナが向かい合って座っている。

 アディリアはアーロンに「第二王子と席を交換しろ」という視線と念を送ったが、アーロンにはゴミ同然に払われた。


(アーロンめっ!)


「エルシーナ嬢とは教室が一緒なのに、まともにお話しするのは今日が初めてですね」

「はい! 第四王子殿下に話しかけるなど、恐れ多くて……。本日このような機会に恵まれて、夢のようです」


 アーロンの光輝く外面王子スマイルに射抜かれたエルシーナは、頬を赤らめ恋する乙女状態だ。


「ははは、そんな風に言って頂けるなんて、私の方が恐れ多いけど、嬉しいな。私に話しかけてくる人は、そういう神経が欠落した人が多いので」

 そう言ったアーロンがチラリとアディリアを見た。


 紅茶どころか熱湯をぶっかけたいアディリアは、笑顔というより顔を引きつらせながら紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。

 しかし、ティーカップを置いても、アディリアの怒りは収まらない。


 再度「席を変われ」と訴えるために顔を上げると、無表情のロスリーと目が合ってしまった。

 慌てて愛想笑いを浮かべるが、すっとそらされてしまう。


「エルシーナ嬢はアディリア嬢とも同じクラスなのですよね? 仲が良いのですか?」


 ロスリーもエルシーナのやらかしたことは、聞いているはずだ。一言目で確認してくるとは、さすが無駄がない。


 さっきまで夢心地だったエルシーナの薔薇色の頬が、一気に青ざめる。そして、不安そうにアディリアに縋る視線を送ってくる。


(面倒だが、仕方がない。エルシーナの好感度を上げて、第二王子に気に入ってもらう必要があるもんね。この際、第二王子に好きな人がいても構わない。だって、エルシーナは美しい上に優秀だ。それに可愛い。恋敵が女性であれば(重要)、第二王子の心は動くはずだ!)


 アディリアは満面の笑みを顔に貼り付けて答える。

「とても仲良くさせて頂いております。エルシーナ様の率直な助言に、わたくしはいつも助けられているのです」

「わたくしも、アディリア様には全幅の信頼を寄せております!」


 目に薄っすらと涙を溜めたエルシーナの視線を痛々しく感じていると、ロスリーが次の質問を重ねてくる。


「アディリア嬢は、アーロンとも仲良くしてもらっているようですね?」


(この質問は何の意図があるのだろうか? 私がアーロンと仲良くする訳ないじゃないか! あぁ! 正妻(アディリア)と 愛人(アーロン)との仲を確認したいのかな? 怒り狂った私が、アーロンとルカ様の関係を暴露したら困るもんね? そんなつもりはないと、どう言ったら分かってもらえるんだろう?)


「……アーロン殿下とは、たまたま好きな物が同じという共通点がありまして……。その話題でお話しする機会はあるかと……」

 仲が良いとは言いたくないアディリアの言葉は、どうにも歯切れが悪い。しかし、アーロンにメロメロのエルシーナは、全く気にすることなく食いついてきた。


「えっ? そうなのですか? その好きな物とは何なのかしら? わたくしも一緒にお話ができれば嬉しいのですが」

 エルシーナが期待を込めた目をアディリアに向けてくるが、当然アーロンが会話を遮る。


「大したものではないのですよ。普通の令嬢が好むような種類のものではありません。ご存じの通り、アディリア嬢はとても変っていますから」

「わたくしもアーロン様と共通の話題があればと思ったのですが……。確かに、アディリア様は変わっていますからね」


 失礼な二人に貶められたアディリアは、仕方なく愛想笑いを浮かべた。それを許しを得たと勘違いした二人は「いかにアディリアが変わっているか」という共通の話題で盛り上がる。


(何これ? 公開処刑? いたたまれない……)


「少し、庭を歩きましょうか?」

 ロスリーの気遣いは、精神的に痛めつけられているアディリアにとって救いの手だ。手を取らないはずがない。




◆◆◆◆◆◆


読んでいただき、ありがとうございました。

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