ゆうしゃがふっかつしてまおうをたおすところまで

「――勇者、勇者よ。私の声が聞こえますね」

 勇者は何も見えない真っ暗な世界に一人取り残されていました。

 そこで不思議な声に導かれます。


「もしや女神様」

「勇者よ、ここで死んではいけません。お前にはまだなすべきことが残されています」


「そうだ、俺は魔王の誘いに乗ってしまって……」

「もう一度やり直すのです。パリピ勇者などという有りもしない概念をさも当然のように名乗っているお前なら出来るはず。常識に囚われてはいけないのです。奇跡を起こす緑髪の巫女もそんなことを言っていました」

「わかりました女神様。俺、もう一度頑張ってみます」

「では、もう一度旅立ちの日まで時を戻しましょう――」

 まばゆいばかりの光が差し込み、勇者を照らします。

 そこで目が合った女神は優しく微笑みました。


「ぶっさwコミュ抜けるわw」

「んだとゴラァ!」

 女神は元ヤンでした。


 みっちりしごかれた勇者は無事に更生しました。

「はい女神様の言うことはー」

「ぜったーい」

「王様ゲームやっんてじゃねぇんだよオラァ!」



 みっちりしごかれた勇者は無事に更生しましたパート2。

「はい女神様の言うことはー」

「サーイエッサー!」

「女神様はー」

「世界一かわいいよ!」

「まーこんなもんでしょ。更生完了っと」


 こうして勇者は再びGODDESS CHILDとしてこの腐敗した世界に堕とされました。



「起きなさい、起きなさい、私のかわいい勇者……って、あら?」

「おはようございますお母様。本日もご機嫌麗しゅう」

「うわびっくりした! 突然なんなの昨日までババアって呼んでたくせに。えっ、もしかして魔王退治に行くの嫌になった? ぽんぽんぺいんなうなの?」

「問題ありませんわ。お母様が思うより健康ですのよ」

 ちなみに勇者はお嬢様口調ですが美少女に転生した設定とか無いので見た目はそのまま……あ、そっちの方がビジュアル的に良い? じゃあバ美肉ったということで。


 勇者は美少女になりました。



「おお、勇者よよくぞ……よくぞ……お主、女だったのか! まあよい」

 王様は選択肢でいいえを選んでも強制的にイベントを進ませるタイプの王様でしたから問題なくイベントは進みます。


「あのな……ワシのお気入りの愛バがな…… …… …… でな…… が…… …… …… 可愛くてな…… たまらん…… くう…… …… さらに…… もう…… すごすぎ…… …… で…… …… そう 思うか…… …… はー! …… …… 抱きしめて…… 寝る時も…… おフロの時も…… …… じゃろ…… …… …… …… 素晴らし……! …… 美し…… …… …… ありゃ! もうこんな時間か! ちょっと喋りすぎたわい!」

 王様はバ美肉勇者にテンションが上がり、つい饒舌になってしまいます。


「よし、では行けい勇者よ。魔王を打ち倒し、この世界に平和を取り戻すのだ!」

「お任せくださいまし。強くてニューゲーム状態の私に怖いものなどありません」

「うむ、心強い」


「ところで大臣よ」

「はっ」

「強くてニューゲームとは何のことだ」

「はい、ニューヨークチーズケーキの同類かと」

「なるほど……なるほど?」

 二人は相変わらずでした。



 後は流れで勇者は仲間を求めて酒場を訪れます。


「見ててくださいまし、今度こそ私は世界を救ってみせます。ザ○とは違いますのよ、ザ○とは!」

「勇者様……」


「じゃあ俺っちは税理士になる」

「じゃあ僕は警察官だ」

「ならアタシはウェブデザイナーになるわ」

「オイラ、医療秘書」

「神官(公務員)のリンです……ってなんですかこのパーティー、有資格者が多すぎません!?」

 本気になった彼らは□の大原で資格を取得しました。冒険に役立つかはどうだっていいのです。何でもいいから資格を取ることに意味があるのです。


 こうして勇者は仲間たちとともに冒険に出発します。


「あの、勇者様」

「はい?」

「こちらの後ろに控えている人たちは……?」


「我ら戦士、全員で一万人です」

「同じく武道家が一万人います」

「私たちは魔法使い、一万人よ」

「僧侶で以下略」

 ......


「ようやく私気付きましたの。戦いは数ですわ!」

「もはや軍隊ですよこれ!?」

 酒場で片っ端から登録しまくったらオーバーフローを起こした結果、勇者のパーティーは今や百人力どころか百万馬力です。無自覚チートって恐ろしいですね。


 こうして勇者と愉快な仲間たち百万人は各地に出向いてはその地域のモンスターを根絶やしにしていきました。


「ビヒモスの肉うめぇww」

「クラーケンもいけるわこれ」

「お前らが飲んでるポーションの緑色な、実はスカラベの粉末なんだぜ」

「おーい、あっちにキラービーの巣があるってよ」


 すぐに食糧が枯渇してしまった勇者軍が食糧難を解決するためにモンスターを調理する行為に走るのに時間は要しませんでした。

 スライムはジャムをかけてゼリー状の食感を楽しみ、キングリザードは尻尾だけ切って永遠と生かし続けます。鶏の卵ならぬキングリザードの尻尾というわけです。



「おお、勇者様御一行ですな。ようこそ我が村へ。ささ、おもてなしの準備が出来て――なんじゃこの人数は!」

 百万人が村の中に押し寄せると我先に食料を貪り尽くします。もはや蝗害でした。


 そしてその夜――


「ついに実行する時が来たな」

「ああ、長かっ、な!? 何をするオリゴー!」

 闇夜に紛れ、二つの影が蠢いていました。


「魔王軍には従わない。僕は二重スパイってやつさ」

「ぐぬぬ」

 いつの間にか敵だったオリゴーが改心して仲間になるシナリオに分岐していました。壮大なサブイベントが発生していたのですが、面倒くさいので省略します。


「くっ、こうなったら俺自らを生贄として魔王様を降臨させてやる!」

 ゲリーは命と引換えに魔王キーガを召喚しました。


「クククッ、我は魔王キーガ。この世界を統べるもの。懲りずに再びやってきたか勇者よ……あれ、性別変わった? それになんか人多くない……多くない?」

「皆の者、やっておしまい」

「サーイエッサー!!!」

 勇者はオタサーの姫にジョブチェンジしていました。


「イミフwwwうはwwwwおkwwww」

 こうして魔王は倒されました。



「ま、待ってくれ。頼む、せめて命だけは」


 ニア いいえ


「ま、待ってくれ。頼む、せめて命だけは」


 ニア いいえ


「ま、待ってくれ。頼む、せめて命だけは」


 魔王は選択肢でいいえを選ぶと無限ループする厄介なタイプでした。



 ニア はい



「ああ、この満たされるような心地よさ……幸せという気持ちに最初に気づいた人が名前をつけたのか。それは誰かに伝えたいほど、不思議でとても愛しい、そんな感情……」

 魔王は坂本真綾の熱狂的ファンだったので、それっぽい歌詞を引用しつつシメに入りました。


「ほな、また……」

 魔王は死んだ。スイーツ(笑)


 こうして魔王キーガは消滅し、世界に平和が訪れたのでした。



「さあ、平和になった世界を見てまいりましょう――あら」

「あり?」

 勇者は旅先でかつての仲間と再会しました。


「アル!」

「あれれ~、人違いじゃないかな~」

「待ちなさい、この種泥棒~!」


 Re.こうして魔王キーガは消滅し、世界に平和が訪れたのでした。

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