パリピ勇者は改心して世界を救うようです

いずも

はじまりからゆうしゃがしぬところまで

 むかしむかし、あるところにパリピ勇者という若者がおったそうな。


「起きなさい、起きなさい、私のかわいい勇者……って、あら?」

「勇者ならもう王様に会いに出ていったぞ」

「ええーっ」

 勇者はとてもせっかちさんでした。


「勇者や、待ちなさい、待てやゴラァ!」

 母は元ヤンでした。

「 うっせぇうっせぇうっせぇわ! 聞こえてるわクソババアが! 声掛けんな!」

 そして勇者は思春期真っ盛りでした。


「王様に会いに行くのですね。言葉遣いに気をつけて身だしなみも整えて――って、何ですかその格好は。グラサン引っ掛けたアロハシャツにハーフパンツ、ク○ックスのパチモンサンダルなんて。王様に会うのにお前が夏の王様になってどうするのです」

「そんなの関係ねぇ」

 勇者は母の静止を振りほどき、王様の元へ向かいます。


「ちゃんとオッパッピーはオーシャン・パシフィック・ピースの略だと答えるんですよー!」

「そんな回答求めてくる王様いるわけねーだろ!」

 母は最近関西の情報番組に活路を見出した某海パン芸人のファンでした。



「打倒魔王キーガを掲げて旅立った歴代の勇者たちもすべて返り討ちにあってしまった。お前の父もその一人だった。そして勇者よ、お前も父の遺志を継ぎとうとう旅立ちの時を迎えたというわけか」

「魔王とかどうでもいいけど、みんながバズるよって言うんで」

「ええいみなまで言うな。人々の期待を背負い魔王退治の旅に出る、まさしくお主こそ勇者である」

 王様は選択肢でいいえを選んでも強制的にイベントを進ませるタイプでした。


「ワシは見た目で人を判断しない。起業家の多くはスーツにネクタイが嫌でラフな格好を好むという。時代の寵児というのはそういうものだろう。しかし一人では偉業は成し遂げられないのもまた事実。酒場で仲間を集うがいい。お主の力になってくれるはずだ。ここに資本金も用意した」

「あざます」

「酒場には行政書士、司法書士、税理士がいるはずだ。バランスの良いパーティーを組んで十分な運転資金を準備しておくのだ。補助金や助成金をうまく利用すること、最初の数年は税制も優遇されること、連帯保証人は信用に足る人物を選ぶこと、決して忘れるでないぞ」

 王様は起業コンサルタントでもありました。


「さあ征け、勇者よ。世界に平和を取り戻すのだ」

「おけまる水産」

「確かこういう時にふさわしい言葉があったはず……PPAPペンパイナッポーアッポーペンではなくて、なんと言ったか……」

「王様」

 大臣が耳打ちします。


R.I.P安らかに眠れ

「そこはOPPオッパッピーじゃん?」

 こうして勇者は旅立ちました。


「ところで大臣よ」

「はっ」

「おけまる水産とはどこにあるのだ」

「はい、OK牧場の向かいにあるかと」

「なるほど……なるほど?」

 この物語はツッコミ成分が不足しています。



「イカした仲間を紹介するぜ!」


「おいっすー、俺っち遊び人のバリンってんだ」

「僕は賢者(元遊び人)のオリゴーです」

「アタシは遊び人のロイだよー」

「オイラ遊び人のアル、よろしくな」


「神官のリンです……って何ですかこのパーティー、偏りが激しすぎません!?」

「だって気の合う仲間ダチと一緒の方が気分アガるじゃん」

 勇者はパーティーのバランスよりも仲間との絆を優先しました。


「リンちゃんウェーイ」

「ウェーイ」

 即オチ2コマ漫画の如くリンちゃんも彼らの色に染まりました。

 郷に入っては郷に従え。

 長いものには巻かれろ。

 ガイアが俺にもっと輝けと囁いている。

 素晴らしい格言ですね。


「オリゴーっち、いつの間に賢くなっちゃってんのさ~」

「最近つるまなくなったと思ったら転職してたとかアリエンティー」

「まーまーいいじゃん、こうして一緒に来てくれてるんだから細かいことは言いっこなしっしょ!」

「ええ、新たな力を手に入れた僕がどんな敵でも蹴散らしてみせましょう。――ただし魔法は尻から出る!」

 彼は一ヶ月のお手軽修行で賢者になりました。



「ざぁこざぁこ、最弱モンスター、経験値1、おらっ、おとなしくアタシらの糧になれっ」

 勇者たちの冒険は順風満帆、向かうところ敵なしです。


「魔王に支配された世界だからもっとヤベー奴がうじゃうじゃいるかと思ったけど、何とかなるくさくない?」

「おらおらぁ、勇者様のお通りだ!」

 彼は典型的なイキリ勇者でした。



「勇者……オイラはここでお別れだ」

「アル」

「すまねぇ……作者がバリンとアルの書き分けが面倒くさいからって理由でパーティー追放なんてさ」

「アル……」

「決して道中で出会った可愛い子ちゃんについていくとかそんなんじゃないから」

「いいから種返せ」

 そんな雑な別れもありましたとさ。



「おお、勇者様御一行ですな。ようこそ我が村へ。ささ、おもてなしの準備が出来ております。こちらへどうぞ」

 辿り着いた村では盛大な歓迎を受けました。


「やっべーここは天国かよ」

「美味い食事に酒もあるし」

「んー、美味しい……かな?」

「美味しいヤミー❗️✨🤟😁👍感謝❗️🙌✨感謝❗️🙌✨またいっぱい食べたいな❗️🍖😋🍴✨デリシャッ‼️🙏✨シャ‼️🙏✨ シャ‼️🙏✨ シャ‼️🙏✨ シャ‼️🙏✨ シャ‼️🙏✨ シャッッ‼ハッピー🌟スマイル❗️👉😁👈」

「……それは新しい魔法ですかな」

 残念ながらパリピ旋風も田舎の僻地までは届きませんでした。


 そしてその夜――


「ついに実行する時が来たな」

「ああ、長かった」

 闇夜に紛れ、二つの影が蠢いていました。


「……あれ? オリゴーがいない」

「そういえば村の可愛い子ちゃんと一緒にいるのを見たような」

「えっ」

「なんだリンちゃん気になっちゃう感じ~?」

「い、いえ、そんなんじゃ」

「隠さなくてもいいじゃん。ていうかこういうのって普通勇者と誰かが熱愛発覚しない? なんで俺じゃないの?」

「ちょっと影の薄い主人公とか人権ないんで」

「そういう本気のダメ出しはナシよりのナシで」

 あと最近は主役よりも脇役同士の恋愛がアツいので。


「あいつまさか一人だけ抜け駆けしてうまぴょいするつもりか! 知らんけど」

「うまぴょいしちゃうんだ~。知らんけど」

 流行りですもんね。乗るしかない、このビッグウェーブに。知らんけど。



 そしてオリゴーを探していた彼らが見たものとは!


「なっ、オリゴーが……二人!?」

 そこにはオリゴーと、彼と瓜二つの顔をした禍々しい瘴気を放つ男が立っていました。


「くっくっくっ、間抜けな奴らだ。まさか俺たちが時々入れ替わっていることにも気付かないとは」

「なんだと、そんな伏線どこにあった!」

「そんなものはない」

「えーっ」


「いや、補導歴のあるあいつが賢者に転職できることがまずおかしいっしょ」

「そっかぁ、青職扱いで五年間はゴールド転職できないんだっけ」

 賢者は免許制でした。

「なーるほど! ザ・ワールド。それこそが伏線ってワケ」

 普通は読者に与えられていない情報を指して伏線とは言いません。

 このお話の作者はまずノックスの十戒を勉強するところから始めるべきです。


「いやまず双子なことに驚けよ」

「それな」

 このお話の作者はまずノックスの(略


「俺の名はゲリー。四天王の一人であり、魔王様の右腕だ」

「えっ、つまりゲリーってのは……変形合体する超合金ロボ……ってコト?」

「違うわ、右腕ってのは例えであって、俺は魔王様の手足となって馬車馬のように働くということだ! サビ残も過労死ラインも俺の前では意味をなさぬ」

 魔王軍には就業規則も三六協定はありません。絵に描いたようなブラック企業でした。


「手足……やっぱり! 合体するんでしょう? ニチアサ戦隊モノの超合金ロボみたいに!」

「手足は忘れろ!」

「手足を無視すると……馬ってコト?」

「なんでだよ!」

「そっかぁ、メンゴメンゴ。超合金馬だったね」

「そもそもなんで超合金前提なんだよ!」

「じゃあ……純金? 18金ネックレスプレゼント? 給料三ヶ月分の指輪渡しちゃう?」

「おっ、ここで愛の告白タイム突入~。フラッシュモブっちゃう?」

「もうヤダなんなのこいつら。なんでお前こいつらのノリについていけるんだ……」

 ゲリーは自己紹介しただけなのに泣いてしまいました。

 かわいそかわいそなのです。


「ってそんなことはどうでもいい! そこの女はオリゴーと逢瀬を重ねたと思っているが、実は俺が相手だったことにも気付かず、知らず知らずのうちに体内に瘴気を溜め込んでいたのだ」

「ナ、ナンダッテー!」


「えーっ、リンちゃんいつの間にオリゴーとそんな深い仲になっちゃんてんの~」

「ち、違っ、キスまでだからっ! 何こいつデリカシーのないこと言ってんの! もー最低っ」

「もっとくやしく」

「このゴミ! クズ! ダサアロハ! ヘンテコグラサン!」

「途中から悪口の相手変わってない?」


「……そんな余裕があるのも今のうちだ。貴様の体内に瘴気を送り込んだのはここに魔王様を召喚するため。貴様はその触媒なのだ!」

「何を馬鹿な――うっ」

 彼女の口から黒い煙がモクモクと吐き出され体が宙に浮いていきます。

 同時に雷鳴がとどろき、稲光が走ります。まるで○リゴンショックを受けた子どものようにその場に倒れました。

 テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見て下さい。

 ついでにこれからショッキングな映像が流れます。ご注意ください。



「クククッ、我は魔王キーガ。この世界を統べるもの。お前たちのような無謀な冒険者に絶望を与えるために自ら出向いてやったのだ。感謝するが良い」

 いきなりラスボスの登場です。道中で突然ラスボスが現れるゲームなんてク○ノ・トリガー以来で……わりとある? そうなんだ、じゃあお話の続きやるね。


「へへっ、魔王がやってきてくれるなんて願ってもないチャンスだ。さっさと魔王コロコロしちゃって世界に平和を取り戻そうぜ、勇者!」

「魔王っていってもレベルアップしたアタシらの前じゃクソ雑魚ナメクジみたいなもんでしょ。パリピ魂なめんなっ!」

「お、おう」

 勇者はなんだか嫌な予感がします。お腹が急降下していました。


「そろそろ毒が効いてきた頃だな」

「!? 体が、動かない」

「なんで……」

「食事に予め毒を仕込んでおいたのだ。この村ごとグルだったのさ」


「う~~トイレトイレ」

「なんでお前も毒食らってるんだよ!?」

 オリゴーは勧められた酒は断らないタイプでした。



「俺っちはもうダメだ。あとは勇者、任せ、た……グフッ」

「アタシも、も、むりぃ……ガクッ」

「バリン! ロイ!」

 二人はしっかりと断末魔を声に出して倒れました。


「フフフ、命乞いをするのであれば助けてやらんこともないぞ」

「なっ、そんな馬鹿な真似をするわけがないだろスイマセンっしたーこの通りです命だけはどうかお助けをーっ!」

 勇者は残った力を振り絞って、見事なジャンピング土下座を習得しました。


「勇者よ、もし、我の仲間ダチになれば世界の半分をやろう。さぁ、どうする」

 勇者は仲間という言葉に迷います。

「魔王……俺――なってもいいのかなぁ。仲間に」

 勇者は脳死で選択肢の「はい」を選んでしまうタイプでした。


「ふはははっ。では世界の半分、糞の世界を与えよう! 糞まみれの世界に追放されてクソッタレと叫ぶがいい。お前の旅は終わった。さあ、ゆっくり休むがよい!」

 魔王の高笑いとともに勇者の意識が遠のきます。

 knmi(これなんて負けイベ?)……ところがどっこい……負けイベじゃありません……! これが現実……!



 後半に続く。(ここで広告を挟む)

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