第19話
それはここから西へ三キロほどの所にある二階建て廃屋のバー。物の三十分で着く距離だ。
しかし一時間もかかってしまった。それはフォドが警戒に当たっているとこによって。遠回りしてまでも路地裏を通らなければならなかった。そんな紆余曲折を得ながら、遂に到着した。
月の微かな光が、建物の古びた木材の壁面を醜く目立せた。正面玄関の上に掛けられた看板に生気が灯っていない。まさに廃屋その者。しかしそんな物はこの周辺、立っているので特段、気にならなかった。
僕達はその建物の中へそそくさと入って行く。中はある程度の広さがある。昔は活気溢れ、にぎやかだったのだろう。奥の方で明りが一つ灯っている。ランプの光。壊れかけの木材の机に置かれていた。その他にもパソコンが置かれている。
そしてその光は机を取り囲むようにして辺りを輝かせている。半径三メートルはある。まるで一種のフィールドのようだった。そのおかげで微かにこの部屋の内部が見て取れる。
椅子と机が隅っこに押しやられていた。丁寧に。恐らくジャックが片付けたのだろう。どうやら二階もある模様。しかし柵しか見えない。そうして内部をたんまりと観賞している内に、その光の元へと付いた。
するとジャックが付くな否やこう話す。「それじゃ、お互いのUSBメモリーをこちらへよこしてくれないか?」ミルと三十代の女性はその声に従って、彼の元へUSBメモリーを渡した。
ジャックはそれを手に取る。そしてパソコンを立ち上げ、まずミルが持ってきた方を挿す。操作する。僕達は彼の後ろでただ見守る。ブルーライトが目を刺激する。
するとアケルが話す。「にしても本当にこんな場所で大丈夫か?」僕は話す。「大丈夫だろう。何だってジャックが自前で用意したからだ。」
アケルは僕の説明を聞き、何か引っかかった様子を見せる。僕は彼を見つめる。するとアムが僕の服を引っ張る。僕は彼女の方へ向く。そこには不安げな様相を浮かべていた。
「ねぇ、何か不気味だわ。この建物の中。それにこの人達…。特に二十代の女性が。私は耐えられない。」と、声を震わせながら僕にそう話した。僕は彼女の憐れむ眼差しに半分、うっとりとした気持ちに襲われる。そして冷たき手で彼女の小さい手を握った。
するとミチルはそれを見ていたのか、唐突に僕とアムの合間に割って入ってきた。堂々と。そしてこう呟く。「そんな大それたことをやる時じゃないよ。」
僕はまるで幻惑から冷めたかのように、はっとする。一方アムはミチルをまるでドブネズミを見るかのような目つきで見つめた。あの基地の時と一緒だった。
するとジャックの方、何か手こずっている様子だった。そして後ろを振り向き、女性陣に鼻化しかけた。「なんだこれ?女子寮委から持ってきたメモリーの中に映像が入っていない。どういうことだ?」
それを聞き、ミチルはすぐさまジャックの近くへ駆け寄った。「そんなわけない。ちゃんと言われた通り、管制室に入って映像を盗んできたよ。ねぇ、そうでしょ。」と、ミチルは彼女達に問う。
彼女達は戸惑う。僕達は困惑する。混乱が起きた。するとその混乱に生じて、二十代の女性が机に置いてあった男子寮のUSBメモリーに手を近づけようとしていた。僕は気付く。
そして彼女のその腕を握った。それはいやに硬かった。まるで直接骨を持つかのように。「君の手はいやに硬いな。か細いのに。棒でも入れているのか?」その女性は僕の顔を覗き込む。そしてにっこりとほほ笑んだ。「そう言うあなたも。とても冷たいですよ。」
「そんなものなのかな。」と、僕はとぼける。その次の瞬間、僕は彼女の腕の皮を思いっきり引っ張った。肌色の皮がむける。血は噴出さなかった。黒い鋼鉄が代わりに姿を現した。
「君の腕は僕と同じだ。」「あら、それは結構。」と、女性は僕と同じようにとぼけた。だが次の瞬間、女性は僕の脛を蹴り上げた。激痛が走る。そしてその勢いで、僕の左頬を殴った。痛む。しかし何年も受けた事によって特段平気だった。
「どうした!」ウィズが呆気にとられた声を出しながら、僕の方を振り向く。他の者達もこの声に反応した。
「殴られた。硬い鉄の手で。」僕は頬をさすりながら、ウィズにそう伝えた。動揺する女性。僕はそれを凝視した。
するとウィズがそれだけで察したのか、すぐさま彼女の手にあるUSBメモリーを取り上げようと襲い掛かった。しかし女性はあしらう。ミルも負けじと劣らず襲い掛かる。しかし彼もあしらう。
ならば僕はと、その戦いの中に突っ込んだ。不意打ちと言う形で。女性は対応できなかった。僕はそのまま彼女の手に持つUSBメモリーを奪取した。だが勢いが付く過ぎたのか彼女の頬に触れる。そしてはがれた。
アムはその光景を見て悲鳴を上げる。皆は唖然とする。女性は顔を手で一瞬隠す。しかし無駄だと悟ったのか、手を顔からどける。包帯を巻いたミカの顔が現れ出た。「ここまで嗅ぎ付けるとは…。フォドは執念の塊だな。こんな薄汚い所まで一人で。こんな姑息な手で来るとは。」と、僕はミカに話す。
「執念が無いとこの腕は着けない。それだけの事よ。それにここにはそれ相当のお宝があるからね。後、一人ではないわよ。」と、皮肉めいた言い回しでミカはそう話した。
僕はそれを聞き、大体の予想を把握した。するとウィズが近寄り、耳元でこう囁く。「どうやら戦局はよろしくなさそうだ。ここで暴れるか?」「そうするしかなさそうだ。もはや毎度のことだが。」と、僕も彼の耳元で囁いた。
「それじゃ、貴様はあのフォド隊員にUSBメモリーを渡し、応戦してくれ。映像公開までの時間稼ぎだ。」「やるしかなそうだ。」「それじゃ、お先に失礼する。」と、ウィズは言いながら、僕の背中を優しく叩く。そしてミカの元へ向かった。
僕はその勢いに押されるかの如く、ジャックの所へ向かう。そしてUSBメモリーを彼の掌へ移し替えた。その時だった。後ろで戦いの鐘がどんと鳴り響いた。
僕はその音を聞くたび心を焦らされる。しかし落ち着いて、ジャックへ向けてこう話した。「ジャック、始めてくれ。なるべく早く。」「兄貴…。分かりました。」ジャックは事の事情を察し、すぐさま作業を開始し始めた。
僕はその事を確認した後、今度はアケル達の方を見つめる。彼等はもじもじと臆病風に吹かれたかの如く、小さくなっていた。僕は彼等に近づく。そして頼んだ。「時間稼ぎに少し手伝ってくれ。恐らく外にはフォドの大群がいる。僕達だけじゃ、城壁が作れない。だから少しの間だけは城壁となってくれ。」
アケル達は悩んだ。そしてその末とうとう承諾した。だが乗り気ではない。まだ戸惑っている。するとその時、銃声と思われる轟音が鳴り響いた。まるで地ならしのような。この音だけで建物が半壊する位の勢いで。
と、同時にドアを突き破り、紺服の隊員が十人、入ってきた。皆、拳銃を持ち、棍棒を腰に携えていた。十人の怨念籠った表情が僕達を睨みつける。それは銃口も。怨念が無機質な物にまとわりついていた。
ミカは隊員が入ってきた事を目視すると、左手で合図をした。隊員の一人が銃口をジャックに向ける。その直後、さっきの銃声に負けじと劣らずの音を立て、弾丸が発射された。
ウィズ達はミカを相手取って動けず。ミチルとアムは茫然とする。アケル達は慣れない音に怖気好き、怯んだ。動けるのは僕だけ。
咄嗟に僕は、弾丸が彼とパソコンに着弾することを防ぐべく急ぐ。弾丸は風を切り裂き進む。僕は風の抵抗に阻まれながらも彼の元へ向かう。
そして僕はまるで体当たりをするかの如く、ジャックとパソコンを机の下へ押しやった。それはもう弾丸が後、数秒で着弾とする瞬間だった。
そうして僕は右肩に強烈な痛覚を感じた。弾丸が肉を突き通す。そして奥の机と椅子の墓場に突っ込んだ。鉄の匂いが徐々に増してくる。痛さも同時に増し、感覚が遠くなっていく。僕は漆喰が激しい床へ倒れこんだ。
「兄貴!」と、ジャックは叫びながら、倒れこんだ僕を支えた。「肉の部分をやられた。それも鉄との境目辺りを。しかし大丈夫だ。傷口さえ防げれば。それよりもジャックは映像を。」と、僕は上半身をゆっくりと起こしながら、小さな声でそう喋る。
するとそれが戦いの引き金となったのか、突如として銃声の金切り声、棍棒の唸り声が上がった。
僕はそれ耳にを聞き入れながら、服を慎重に脱ぐ。右肩辺りに血が、まるで円を描くように染みていた。鉄の生臭い匂いが鼻を刺激する。僕は血が付いていない左袖の部分をちぎり、それを包帯代わりに巻こうとした。
するとその時、アムとミチルの声が聞こえてきた。二人ともカズヤと叫んでいる。そしてその声が反響する内に、僕の所まで近づいた。アムは着いた途端、ヒステリックな悲鳴を上げた。「カズヤ!血は止まるのですか?血は?」
「大丈夫だ。いずれは止まる。」と、僕は彼女にそう言いながら、破った布を巻きつける。するとミチルが僕の背中に来て、巻き付けるのを手伝った。「すまない。」と、僕は彼女に話しかける。
「別に、これくらいは当然だよ。」と、ミチルは落ち着き、少しヒステリックな様子でそう話した。銃撃の音が聞こえる。恐らくウィズ達が戦っているのだろう。するとアケル達が、机の下へ素早く移動してきた。それは背を低くして。
そうして着いた途端、まずアケルが口を開いた。その口調は慌てていた。「どうやら戦わなかければ殺されるらしいな。」すると次にタロウが口を開く。「今回限りの宣戦だ。俺の命を守るためにな。」そしてそれを聞いていたタダノは、ただ首を上下に振った。
「だったら任せる。だが余り無理はするな。相手は特殊部隊。更に拳銃付きだ。」と、僕は張り切る彼等にそう話した。「馬鹿馬鹿しいな。そんな注意を受けなくても至極招致だ。無駄口だったな。」と、アケルが煽り口調でそう話した。そして彼らはその場で、じっとうずくまるようにして、固まった。
僕の注意喚起は無駄口だと、それを見て思った。そうしている合間、彼女の甲斐あって、遂に白濁の布を右肩に巻き付けた。だが血がすぐさま円を描くように染まっていく。しかし巻き付けないよりはましだった。
僕はもう一度、着ていた服を着服しジャックのいる方を向く。彼はパソコンを必死に操作していた。僕はそれだけ確認すると、彼に何も言わず机の下から出ようとした。戦場へと向かう。今だ銃撃の音が聞こえている。倒れていないだろうかと内心、心配した。
するとアムが出て行こうとする僕を止めるかのように、服の袖を引っ張った。そして耳元でこう呟く。「ねぇ、死にませんわよね。ここで死ねば、私寂しいですわよ。それに命も…。」
僕は彼女のその悲しき、興奮した顔を見つめる。しかし僕は首を横に振った。今の目的はフォド壊滅。それにもうすぐそれがかなうと言う所。むざむざと引けない。だが口にはそれを出さなかった。
アムは僕のその心境を、顔を見ただけで察した。彼女は悲壮なるその姿を全面へ出す。それは一種、裏切られたかのように。僕は彼女の心情を察し、彼女の手を握る。それは数秒。そしてすぐさま机の外へ飛び出した。
淡い光が目に染みる。銃声の音、何かで殴られる音。騒めき合っていた。すると僕の目の前に大きな人影が現れた。僕は見上げる。そばかす目立つ隊員だった。息が止まる。
だがその隊員も息が止まっていた。どうやら僕が出てくることは想定外だったらしい。僕はそのチャンスを逃すまいと、左拳に思いっきり力を蓄える。そしてその拳を隊員の顎目掛けアッパーをかました。
モータの古臭い音が響く。隊員のヘルメットが粉々に砕け散る。顔が見えた。しかしよく見えない。そのまま倒れこんだ。僕は低くした背を元通りに戻し、銃撃音激しい前を見る。
ウィズとミルが奪った銃で打ち合い。それに負けず、ミカとアレルヤ隊も交戦していた。それは闘技場で戦う剣闘士のようだった。その地面、三人の隊員がまるで屍のように倒れこんでいる。うち一人は血だまりを作っていた。
波乱万丈な戦い。僕はその中に単身一人で飛び込んだ。まず目に見えたのは、ウィズに気を取られた隊員。僕はそれを奇襲と言う形で、後ろから体当たりを掛けた。
その隊員は呆気にとられたかのように、床へ落ちていく。ミカはその様子を見ていたのか、ルビーの宝石の如く興奮を含んだ熱い瞳を輝かせていた。
「孤高の英雄様が遂にご到着か。」と、ウィズは盗み取った銃を発砲品しながら、そう声に出した。一方ミルは若干気に入らない様子だった。
僕はただ黙っていた。その代わり倒れた隊員を気絶させる音を響かせた。ウィズはどうやらそれでなった句した様子だった。
だがミカはなってくしていない様子。そのせいか僕に向かって走り込んできた。左腕が刃先となって。僕は奪った銃を構える。
するとその時、この拳銃の持ち主である隊員が気を取り戻したのか、ゆっくりと起き上がった。そして僕に目を向ける。まさかここで起き上がるとは思いもよらなかった。
そのまま隊員は怨念のこもった蹴り一発を脛に叩き込んだ。僕は危うく体勢を崩し倒れそうになる。しかし持ちこたえた。僕は目線を合わせ隊員を見る。するとその背後、ミカの姿が現れた。もうすぐそこまで迫っている。
僕はその時、隊員にこう話した。「貴様如き、この銃が無いと僕を殺せないだろう。僕はそこまでひねくれてはいない。ほら、持って行け。」そうして僕は手に持つ銃を、ミカが走り込んでくるであろう方向へ投げた。
隊員はまるで餌を与えられた犬の如く、その銃に飛びついた。そして銃を片手に、僕に有志を見せようと体を起こそうとした。僕は今だと思い、隊員の胸部辺りを思いっきり蹴飛ばした。隊員は何が起こったのか分からない様子でそのまま倒れた。
ミカが唐突に倒れこもうとする隊員に驚き、途端に両足を止めた。しかし一度かけたエンジンは止まらい。そのまま隊員諸共、彼女は巻き込まれ、互いに床へ体をぶつけた。その有様はまるで玉突き事故のようだった。
僕はそんな絶好の機会を逃すわけにはいかなかった。進む。もはや安定しない人形のような隊員を跳ね除け、ミカを押さえつけた。両腕に刃先が当たり、歪な音を立てる。彼女の眼球が光る。まるで水晶がそのまんま埋め込まれているかのように。
「話し合いなら、もう少し華やかな場所が良かったわね。」と、ミカはまるで息切れ寸前の擦れたような声を出した。「言えているな。だが僕達にはこの居場所が似合う。そして終わらせなければならない。」と、僕は冗談交じりに彼女にそう言った。
「そうなれば何か飲み物が必要ね。この近くにある飲み物と言えば…。」ミカは言いながら、右腕を刃先へ変換させた。煌めく刃がときめく。と、次の瞬間ミカはあらん限りの力を左腕へ集中し、僕を押しのけた。新鮮な錆びないモータ音が鳴り響く。まるでバーで流れるジャズ音楽のように。
僕は倒れる。ミカはその時を狙った。ときめく右腕の刃先を僕の首元、一直線に突き刺そうとした。僕は刃先の餌食になる前、右腕を引きちぎれる程に思いっきり動かした。おかけで刃先は首元には届かず。
だが一難去ってまた一難。ミカはその為に用意したと言わんばかりに、右腕の刃先を今度は心臓目掛け振り下ろした。今度の僕は体を右へ、まるで引っ張られるかの如く押しやった。これもおかけで刃先は心臓へ届かなかった。けれども無傷とはいかず、左わき腹に刃先が食い込んだ。
血が少し垂れる。しかし特段気にならなかった。僕は上半身を起こし、その勢いでミカに額に頭突きをくらわした。彼女は怯む。僕は立ちあがる。そして左腕を刃先に変え、それを彼女の右腕の関節部へ振り下ろした。
神経接続線に達したのか、電気のピリピリと言う音が微かに聞こえた。と、同時にミカのささやかな悲鳴が響いた。彼女の気が緩む。僕はその悲鳴に耐え、その隙を狙いながらも、今度は左腕の関節部へと刃先を振り下ろした。彼女の悲鳴また聞こえる。
そして最後の仕上げとして、腹を殴りそして背負い投げをして倒そうとした。しかしミカも抵抗する。彼女は左腕を無理やり動かし、僕の右頬を無理やりビンタした。頬に痛みが走る。そのせいで一瞬気が緩んだ。だがミカは痛みに耐えれなかったのか、そのまま床へ倒れこんだ。
その時だった。ジャックが歓喜と達成感が入り混じった叫び声をあげた。「終わった!終わりました!映像は無事、流せました。」
僕はそれを聞き鼻息を漏らしながら、両肩をゆっくりと上げる。そしてジャック達の方へ目線を向けた。ジャックは安堵に包まれ、アム達その他はようやく終わったかと、力が抜けていた様子だった。
一方ウィズとミルはあちこちに怪我をしながらも、九割の隊員を拳と奪った銃で殴る倒していった。残りの隊員は怯え、そのままミカを置いて逃げ去った。
ミカは瞼を閉める。そしてこう呟く。それは悟った言い回しのように。「流されたか…。これも因果応報かしら。それとも自業自得かしら。」「…。そうかもな。」「だったら私はここで死ぬのかな…。マイクと同じように。」「いいや、ただ僕達と同じ土俵に立っただけだ。マイクのようにはならない…。だが彼と同じ仕打ちをしてしまったのかもしれない。」
「言えているわね。それを傲慢…。でもどうでもいいわ。」と、ミカはそこで口を閉じた。机に置かれるライトが今も何事もなかったかのように輝いている。ミカはその光を下半身だけ受けていた。上半身は徐々に闇に飲まれている。
するとウィズがこちらへのそのそとやってきた。それは盗んだ拳銃をちらつかせながら。「フォド第三の騎士が倒れたか…。これで楽々と排除できる。」と、ウィズはそう呟きながら、銃口をミカの心臓へと向けた。
アケル達も彼の言う事に同調した。殺してしまえと叫ぶ。日頃の恨みが爆発するかのように。だが僕は彼の掲げた銃口を手で覆い隠した。「おっと、また銃弾を浴びたいのか?」と、ウィズは白い歯を見せ微笑する。
「貴様の目的は分かってはいる…。しかし僕の心情が邪魔をする。」「詩的だな。だがこれも使命だ。どけてくれ。例え貴様の心情でも、別の信条でも。」「済まないが出来ない。」僕は唇を噛み締め、銃口を力一杯握りしめた。
アケル達が僕を非難する叫び声が響きわたる。物静かな、戦乱の後の室内に。ミルは呆れた眼差しを向け、アムとミチルは心配そうな顔を呈す。僕は俯く。もはや自分の中が矛盾に耐えられなくなっている。
その時だった。ミルの後ろ。何か物音がする。何かを拾い上げ、身体を起こすような。僕達の目線は不穏なるその音に注目した。薄暗く、詳しくは見えないがアレルヤ隊が起き上がり、落ちていたライフルを拾い上げていた。銃口がウィズへと向けられている。
僕は咄嗟にウィズを銃弾の餌食にしまいと動いたが、間に合わない。それは部下のミルも。銃声が鳴り響いた。頭に何度も反響する位に。弾丸が彼の肉を狙う。だがウィズは瞬発的に、倒れるミカの襟首を持ち上げる。そして彼女を銃弾の前へと突き出した。
弾丸は差別なく彼女の胸へ着弾する。血が紺色のスーツを赤黒く染める。僕はぽかんと口を開けた。余りの衝撃の光景に思考の回路が寸断された。それはアレルヤ隊も同じだった。顔が見えなくても動作で十分分かる。
その隊員もミルの打ち返しで、銃殺された。隊員は恐らく何も分からないまま死んだ。再び静寂は訪れる。ミカは海岸に打ち捨てられた空き瓶のように、そっと仰向けになり寝ころんでいた。目は閉じている。
僕は呆気なく死んだ彼女を見つめる。その次にウィズを見る。彼はミカの横で左足を曲げながら座っていた。ウィズも僕を見つめる。そして紡ぐ口をゆっくりと開いた。「偶然的だが…。これでお互い満足だろう。」
僕は彼を黒く染まった眼差しで見つめる。もはや口にすることなど何もなかった。どうでもよくなった。皆はまた静まり返った。しかしライトは来た時と変わらず、机一帯を半円形の形に添って照らしていた。
ウィズがまた話し始めた。「カズヤ。そして皆。ここから退出だ。こんな物騒な所で夜を明かすのは嫌悪するだろう。各自、準備をして私についてこい。後、カズヤ。この鋼鉄女から弾丸を取って行け。形見としては十分だろう。」
皆はそれを聞き、各自動き出した。僕はミカに近づき、両腕から弾丸を一個づつ取り出す。それをまた一個づつ、今度は僕の左腕へと装填していった。その一連の作業は数分で終わった。
僕はミカを見つめる。清々しい顔をして眠りについている。僕は彼女の頭を撫でる。まさかこんな終わり方をするとは思いもよらなかった。
そして気持ちに踏ん切りを付け、立ち上がった。皆は準備満タンだった。そのまま死体置き場と化したバーを後にした。
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