第17話

 翌朝。サイレンのうるさい響きに起こされる。僕達は体を起こし、食堂へ向かう。睡眠をとってもやはり、皆の顔は疲れと言う物が取れていなかった。


 そして食堂に入り、いつもの席で食事を取った。メニューの内容は朝と同じだった。それに隊員、仲間からも今朝同様の仕打ちを受けた。だがそんな事は数十分で終わった。皆は食堂から出て、元の場所へ向かっていく。


僕が箱を取りに行く。やはり彼等の黒い瞳がそう訴えかけている。だがありがたかった。おかけでウィズとの接触が計れた。


彼は僕の後ろへ並び、順番を待っている。列が動く。その時、ウィズが足先で、僕の踵を軽く叩いた。ベルを鳴らすように。しかし僕は振り向かない。そのまま右手をそっと、差し出した。掌に何かが置かれる。


それを一瞬の内にポケットの中に入れた。近くにいた隊員が、番犬の如く目を光らせる。しかしウィズの素早い行動。たまたま箱を手に持ち、席へ帰る男が重なったおかけで、細部までは見えなかった。


息を軽く吐く。緊張と興奮と共に。そうして箱を持ち、席へすわる。訳の分からぬ資料が一杯まで入っていた。それを机の上に置き、作業を始めた。


 一時間が経つ。この部屋の中にいる者が、無意味な作業に集中した。その時を狙い、ウィズから貰った手紙を見る。


「拝啓カズヤ。泥水を飲まされているようだな。それはそうと聞いたよ。脱出計画だって。興奮したよ。希望が見えたくらいに。これで心が死ぬことはなさそうだ。それで貴様の意見を聞きたい。返事を求む。置き場所は男子トイレで。」


僕は筆を動かしながら、その手紙を読んだ。そしてジャックの分も一緒に書こうと、昨日手に入れた資料を出す。それは慎重に、呼吸をリズムを崩さずに。取り出せた。辺りに隊員はいない。


今だと、持てる力を出し、さっと速筆で書いた。まずはジャック、ついでウィズと。内容は返事、今後の事等。資料を書くふりをしながら。


手が想像以上に震える。ばれる 翌朝。サイレンのうるさい響きに起こされる。僕達は体を起こし、食堂へ向かう。睡眠をとってもやはり、皆の顔は疲れと言う物が取れていなかった。


 昨日と同じく食事を取り、いつもの作業所へと向かった。僕が箱を取りに行く。やはり彼等の黒い瞳がそう訴えかけている。だがありがたかった。おかけでウィズとの接触が計れた。


彼は僕の後ろへ並び、順番を待っている。列が動く。その時、ウィズが足先で、僕の踵を軽く叩いた。ベルを鳴らすように。しかし僕は振り向かない。そのまま右手をそっと、差し出した。掌に何かが置かれる。熱がこもっていた。


それを一瞬の内にポケットの中に入れた。近くにいた隊員が、番犬の如く目を光らせる。しかしウィズの素早い行動。たまたま箱を手に持ち、席へ帰る男が重なったおかけで、細部までは見えなかった。


息を軽く吐く。緊張と興奮と共に。そうして箱を持ち、席へすわる。訳の分からぬ資料が一杯まで入っていた。それを机の上に置き、作業を始めた。


 一時間が経つ。この部屋の中にいる者が、無意味な作業に集中した。その時を狙い、ウィズから貰った手紙を見る。


「拝啓カズヤ。泥水を飲まされているようだな。それはそうと聞いたよ。脱出計画だって。興奮したよ。希望が見えたくらいに。これで心が死ぬことはなさそうだ。それで貴様の意見を聞きたい。返事を求む。受け取り場所は午前の作業が終わった後。」


僕は筆を動かしながら、その手紙を読んだ。そしてジャックの分も一緒に書こうと、昨日手に入れた資料を出す。それは慎重に、呼吸をリズムを崩さずに。取り出せた。辺りに隊員がうろちょろとしている。僕に狙いを付けている。


慎重だった。持てる力を出し、さっと速筆で書く。まずはジャック、ついでウィズと。内容は返事、今後の事等。資料を書くふりをしながら。


手が想像以上に震える。命懸けの瀬戸際で書く手紙は、心臓に悪い。しかし書く。時間を掛けてまでも。両目が瞬きを拒絶していた。


すると目線を感じる。僕の心臓はしゃっくりをするように、ドクンと鳴る。その方向へ、両目を眼球全体が痛むまで上げた。そこにはあの四十代の男がじろじろと、何をやっているのか、興味深く見ていた。


僕は肺へ一度、呼吸を入れる。狂う精神を抑えるため。そしてまたペンを動かした。隊員に見られるよりは、はるかにましだ。そう思いながら。


そのせいで手紙二通書き終わった頃には、午前の作業終了チャイムが鳴り響いていた。僕は両肩を思いっきり上げ、そして力を抜き下ろす。同時に口から、汚染された二酸化炭素が吐き出された。


ペンを一斉に置く音が、まるで軍事パレードの行進の如く轟いた。いつものリーダーの騒音が聞こえた。立ち上がる。隊員達の目が作業所を出ていった。


前面にウィズがいる。いつもより遅く歩いている。周りに収容者達が固まる。僕は園中をかき分け、彼の背後に迫る。そしてさっきのと同じように、背中をつついた。


ウィズの腰から、左手が出てきた。僕は書いた紙切れを置く。彼は手を握る。その後、その手は奥へ消えていった。僕は戦線を離脱するかのように、彼から離れる。


それからいつも通り、僕は食堂に向かった。そして今度はジャックへの手紙を、ゴミ箱の影へ落とした。よくよく見ないと、ここに落ちている事は分からない。受け取ってくれると、心から願うしかなかった。


 食事を取る。不味い飯が、何度も胃を脅かす。食事の時間は何時も地獄だ。コーンスープが鈍い色をしている。そして食べ終わる。


皆はトレーを厨房へ返しに行き、食堂を出ていく。収容者達は歯をすり合わせ、胃にある不純物から発するガスを、軽減しようとしていた。


皆は食堂から出て、元の場所へ向かっていく。その時、何者かの指で背中を突かれた。僕は息を呑む。後ろを振り向かない。心臓がはち切れんばかりの鼓動を響かせる。まるで空気を送り続けられる風船のように。


「おい、ちょっと待て。」何やら僕の耳元で声が聞こえた。僕の心臓はその一声で破裂した。顔面蒼白になる。ゆっくりと後ろを振り向いた。しかしそこには隊員ではなく、三十代の男だった。


蒼白だった僕の顔は熱を帯びてきた。心臓もさっきの状態に戻っていった。「午前の作業の時、何を書いていた?」男は歩きながら聞いてくる。


「いつも通り、訳の分からぬ資料を書いていた。」僕はとぼける。「白々しいな。俺は知っているぜ。それに仲間も。ゴミ箱に何か落としていた。別の班と受け渡ししていた。まさか誰も見ていないとでも。」


「…。どうやら隠しても無駄なようだ。」僕は小声で話す。「それで、内容は何なんだ?」「知りたいのか?」「あぁ、そうさ。だが教えてくれなくてもいいぜ。その時はここの糞紺ジャンパー野郎にチクるだけだが。」男性は脅してきた。僕は唇を噛み締める。


「分かった…。内容を教えよう。だが条件がある。」「なんだ?」「今後、仲間も含め、僕を一切殴らないと約束してくれ。それが条件だ。」「分かった。分かった。仲間にもそう言っとくよ。だが、貴様達を恨んでいる事も忘れるな。」「別に僕はあなた達には何もやっていないけれどな。」


それから僕は事の経緯を話した。男はこくりとこくりと肯く。「なるほどな。うまい話だ。」「どうだ、協力してくれるか?」


「あぁ、協力してやるぜ。複雑な気分だが、ここから抜け出せるなら我慢は出来る。」「なら僕も我慢するしかないな。それで名前は?ここ来て、一度も聞いていなかった。」「アケルだ。少しだけの同盟、よろしく。」


そう言い合っている合間、僕達は作業所に付いた。その頃には十五分経つか経たないくらいだった。また座る。そして時間が来るまで作業を続けた。


もし脱出計画と言う、未来ある物が無ければ、今頃脳は死んでいた。そう思いながら、ジャックへ向けて、また手紙を書いていた。内容はルームメイトにばれた事。協力したがっている事等。


まるでかくれんぼをしているかのように、ハラハラとする。アケルが右手を動かしながら、僕を見る。見物客のように。


すると作業所のドアが開く音が聞こえる。それはペン先が擦れる音しかしない、この空間で異彩を放った。この部屋にいる者、全員が一瞬振り向く。


ジャックが顎を二回下げながら、申し訳なさそうな様子で入ってきた。そして近くにいた、顎髭がまるで雑草のように生えている男性隊員に何かを話す。


その隊員は納得したのか、そのまま部屋を出ていった。ジャックはそれを確認すると、僕の顔を見つめる。僕は了解と、右目を素早く閉じた。同時に左人差し指を使い、来いと合図した。


ジャックは合図を受け取ると、腑抜けた顔が一変し、そこらの隊員がいつも取っている鬼の形相な顔へと変貌した。両足に力を入れ、前へと出し、こちらへ向かってくる。


その姿はまるで猫を被っているかのようだった。他の目から見れば、異質に映る。僕はそんな彼を見ながら、さっき書いた紙切れを、椅子近くに落とした。


その一滴を、ジャックは見逃さなかった。トンと、小さく軽い音を立てて落ちた時に、背筋を少し曲げ、拾い上げた。そして素通りしていく。僕は確認した後、また作業に戻った。


ばれていないと祈るばかり。そのまま作業を続けた。アケルと三十代の男はその光景をじっと、眼を乾燥させる位、じっと見つめていた。二十代の男性は相変わらず、茫然としていたが。


頭が脈打つ程のチャイムが鳴り響いた。収容者達は、元から脳チップを備えているかの如く、食堂へ身を寄せていった。


僕もいつも通り向かって行く。ウィズが見えた。僕は近づこうとする。しかしその時、誰かに腕を掴まれた。


隊員から声を掛けられた。「振り向け。そしてついてこい。」僕の心臓は破裂しそうになる。しかし振り向く。そして黙々と着いて行った。


 作業室側の階段を昇る。二階、三階、四階へと。足音が交互に鳴り響き、それが一種の交響曲を醸し出していた。


 そして隊員、僕は四階の長い通路を歩く。右側に扉が一つ付いてあった。前を通る。すると別の隊員がその中から出てきた。中が少し見える。


隊員用の食堂が用意されていた。隊員たちは座って食べている。全部は見えなかったが、香ばしく匂うスープに新鮮なサラダだけが目視で来た。


皆、僕達よりも良い物を食べていた。ため息を吐く。そのまま進んで行く。食堂の隊員達は僕を睨みつける。僕は目を逸らす。そして食堂を過ぎ、奥の通路にある扉へ向かった。


それは忌まわしきの扉を思い浮かべる。扉が隊員の手によって開かれた。中に入る。手前に肘掛け椅子が不自然に置かれていた。その奥、中央にはソファが向かい合うっている。その合間に机が挟まれていた。人が二人座っていた。


左側には頭に包帯を巻くミカ。右側には頬に絆創膏を貼るミハイル。そして更にまた奥、机が置いてあった。しかしその後ろにある壁は、全部窓ガラスに変えられていた。窓ガラスからは町のネオンライトが細々と見えていた。


 白スーツを着た男が窓辺の景色を見ている。屈強な見た目。僕はその後ろ姿だけで、ハイドだと分かった。「連れてまいりました。」隊員はまるで背中に棒を括り付けられたように、背筋をピンと伸ばしながら伝えた。


「そうか。それでは引け。」と、ミハイルはまるで蠅を払うような素振りで、隊員にそう言った。隊員は一礼し、そのまま部屋を出ていく。


「さぁ、カズヤ。その椅子に座りなさい。」と、ハイドが話す。それは重圧があり、身をこわばらせるくらいに。僕は黙ったまま、目の前に置いてある椅子に座る。ミカとミハイルは目を離さず、じっと見つめる。


ハイドは耳でそれを見聞し、窓を背に歩き出した。僕に向かって行く。一歩、慎重で大胆な足取り。僕はハイドのその姿を、まるで迫りくる壁面のように思えた。そして目の前に立ち、こう話す。


「ここの施設はどうだ?」僕は答える。「とても耐えられないさ。不味い飯を食わされ。中身が空っぽな仕事をさせられ…。身に応えた。」「そうか。しかしこれくらいが救済に最適だ。虚構、苦痛の中に希望がある。無をやることによって精神を鍛えられ、人は己を超えることが出来るのだ。」


「しかし僕、皆はその無により瀕死の重傷を負っている。死にかけだ。もはや超えるかどうかの話ではなくなっている…。」「そこからなのだ。彼等は解脱しようとしている。」と、ハイドは一歩譲らず、自分の意見を堂々と言う。


「だが強制的じゃないか!それに向かっているのは解脱とは正反対。こんな矛盾した言い分は聞いたことはない。」僕も彼に負けじと劣らずそう言った。


「カズヤも物言いになったな。一年たったら人は変わる。ある意味間違いないのかもしれないな。」と、ミハイルは深く感服するようなそぶりを見せた。しかしそれは大袈裟すぎた。皮肉めいて愚弄しているかのように。僕はミハイルを横目で見る。


 するとミカはタイミングを見計らい口を開いた。「そうね。カズヤも昔は真面目だったけど、今では小人物になってしまった。毒に触れたせいかしら。そのせいで仲間を殴ったり、不純な人たちとつるんだりもした…。だからいい機会よ。この施設で昔のあなたに戻ってちょうだい。」


「それはまっぴらごめんだ。もはや昔の自分は取り戻せない…。」と、僕は影が落とされた床を見つめながら話す。「…。残念ね。」と、ミカはため息を吐いた。


ハイドは口を紡ぎながら、その会話に耳を傾ける。そして満足したのか、また彼は話し始めた。「カズヤの考え方は私と相反しているが。別にいい。それがカズヤの考えなのなら…。救済施設をたっぷり味わうがいい。」


「そうか…。それじゃ、最後に聞きたいことが。アムとミチルは何処にいる?」「アムは私が保護している。ミチル…。あの少女は女性寮にいる。」「何処にあるのだ?」「それは教えられない。」「…。分かった。」そうして会話は終わった。


 僕は外で待っていた隊員に連れられ、元居た部屋へと戻っていった。防犯カメラが二人の様子をじっくりと見つめている。お帰りと言っているような気がした。そして入る。


入った途端、無慈悲にドアが絞められた。ロックする音が聞こえる。僕は室内を見つめる。アケル、その他三人の同居人が僕をじろっと見ていた。まるでフクロウのように。それに何か言いたい様子だった。


まず二十代の男が先陣を切る様に、こう話しかけた。「何処に連れて行かれていた?」「ここを管理する奴が話したいと言うんで、話してきた。」と、僕は説明する。


「へぇ、何でだい?」と、四十代の男も聞いてくる。「話が長くなる。それに就寝時間だ。今度話す。」「分かったよ。だが、それよりも脱出の話の事だ。」と、男は僕に近づきこそこそと小声で話す。そしてまた続けてこう話した。


「どうやら脱出の手立てを整えているらしいな。本当か?」「あぁ、そうだ。あの男から話は聞いただろ。」「それじゃ証拠を見せてくれ。俺は証拠が内藤動かないたちだ。」「分かった。」と、僕は肯きながら、例の手紙を見せた。


二十代の男、その他の男達はその手紙に釘付けになる。そして数分後、その手紙を僕に返す。「行っている事には間違いないな。しかしそれでも六割だ。」「それじゃ、その六割を近づけようじゃないか。でもその代わり、今後僕をいじめないでくれよ。いくら僕が彼等と同じ手をしていても。それがアケルとの約束だ。」と、釘を打ち付ける位、僕はそう喋った。


「分かっているよ。」男は素っ気ない返事を返した。信用に足らない返事。だが信用するしかないと、僕は思った。


「そう言えば聞いていなかったが、あんたの名前は…。」僕はその男に問う。「そう言えば言っていなかったな。俺の名はタロウだ。そして向こうのはタダノだ。」と、タロウはタダノの分も含め自己紹介を軽く済ませた。


「これからよろしく、タロウ、タダノ。」僕は一言、彼等に握手を求めた。しかし手に取らない。タロウは気味悪がっており、タダノはどうでも良いと言う風だった。タロウは言う。「勘違いしているようだが、俺らは脱出したいだけだ。仲良しこよしをしようじゃない。それにその手は不気味だ、握りたくはない。」


僕はそれを聞き、ため息を吐く。と、同時に仕方が無いとも思った。するとその時だった。サイレンのような轟音が鳴り響く。


「どうやらここまでのようだ。」と、タロウは天井を見つめ、そう呟く。「そうだな。」と、僕達はサイレンの音にかき消される位の小さな声で話した。


それから僕達、他の仲間はそそくさと布団を引いていく。布団を引き終わる。僕達はその中に入った。今回は殴られなかった。


その瞬間、部屋の電気が落とされた。輝きが消える。それは目を閉じたか分からない位に。でも目は閉じていた。それから翌朝。僕達は連携して計画を練っていった。


まずアケルは僕とウィズとの手紙の受け渡しを迅速に行うための護衛となり、タロウは他の数人の仲間に協力を依頼し、脱出経路になる道をより詳しく探らせた。その他の二人、タケルとタダノは僕達の行動を悟られないために作業に集中する事となった。


 奇妙な連携だった。昨日までいがみ合っていた僕と部屋の住人たちが協力すると言う事。僕は少し違和感を覚えた。しかしそのおかけで計画は迅速に進む。そしてそれはウィズの目を見ても明らかだった。






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