第5話

 僕達はフォドの魔の手から逃れるため、一度僕の家へ避難した。木製の机に置かれたポーチライトが、暗い影を落とす部屋の中を輝かせる。それは円を描き、一つの空間を作っていた。しかしその空間を貫くかの如く、紅色の光が入ってくる。


 そして今、机を挟み、互いに向かい合って見つめていた。「まさか君の家へ案内されるとは、思いもよらなかった。」「それは僕も同意見だ。」


「しかしとても簡素な一室だ。必要最低限のもの以外何もない。それに壁の隅にある蜘蛛の巣。床に佇む埃。そしてそれらを際立たせるコンクリートの壁、天井、床。これもインテリアの一つか?」


「そりゃ、ここはもう数年前から人はどっと減ったからな。そのせいで管理人もいなくなって、そして僕みたいな不法滞在が増えていった。と言うよりかはここの周辺がそうなっている。」


「なるほどな。しかし賑わっているじゃないか。ある意味世代交代と言う奴かな。」ウィズは皮肉交じりに話す。「そうかもしれない。」僕は味気のない返事を返した。


「それで話が変わるが、君は何故、組織を裏切ったんだい?君も数年前までは忠誠を誓っていたはずだろう?その両腕が証明している。」ウィズは細い目で僕の腕を観察する。


僕は「まだ組織が小さかった頃、僕は治安維持に追力した。元々、フォドは金のある自警団のような組織さ。スポンサーにエルクラウド社がいる。最初は犯罪者の摘発。だった。」「警察ごっこか。」


僕はウィズの言い分に肯く。話を続ける。「だがしかしハイド。フォドの首領は過激になった。次にホームレスを取り締まっていった。犯罪の根源だとな。だから無理矢理でも取り締まる。そして施設へ送りこんで行った。慈善活動まがいに。」「施設にか…。嫌な想像ができる。」


「しかし施設は極悪。僕はそんな組織に疑問を抱いた。そして僕は遂に我慢の原価にを迎え、組織を離脱した。」


ウィズは両手を組みながら、僕の話に耳を傾ける。親指同士を擦り合わせながら。そして終わったと、その時を見て、また口を開いた。


「なるほど。そして反感を持った結果、組織から離脱したと。だが、ある意味正しく、そして自分勝手な奴だ。とても面白い人生だ。」


「面白い人生で良かったよ。」僕は歯の隙間からため息を漏らす。「そりゃ、結構。だが例え正義に目覚めたとしても、そんな崇高な目的をもってしても、この町は良くなるかな?所詮フォド等、暗雲たる社会から出た魔物だ。根源ではない。」


「分かっているさ。例えフォドを壊滅できたとしても、町の惨状は変わらない。元々、ハイドもそれを危惧して作り上げた。それに第二のフォドが現れるのかもしれない。だがフォドを壊滅させなければ、惨状が広がり後に戻せなくなる。」僕はそう呟きながら、両手を組む。


「それも正しいな。しかし大体、こう言う奴は分かったふりをしているだけなのがおちさ。そして最終的に潰れてしまうか、自己欲求に走るのがおちだ。まぁ、私には関係はないがな」ウィズは柔らかい笑みを僕へ向ける。


「その通りかもしれないな…。自戒しておくよ。」僕も彼と同じような笑みを見せつけた。「まぁ、頑張ればいいさ。君には君の目的がある。私には私の目的があるからな。」


「そう言えばウィズは何故、フォドを追うんだ?そこまでの驚異なのか、国際警察にとって。」僕は唐突に頭の中に沸いた、疑問を彼にぶつけた。


「そうだな…。一つは国際警察が危険組織と断定した。特に君が付けてい異質な腕。確か名前は、フレキシブルアーム。」「やはりこれは脅威か?」僕は左手の手袋を脱ぎ捨て、彼にまざまざと見せつける。


「そりゃこんな未知数で、物騒な物を付けて、町を闊歩していたら問題になる。」「なるほど、それでもう一つは?」「私の個人的な問題だ。フォドの行為が余りに鼻に付くからな。」ウィズは首を一回転回す。細い骨が折れる、快活な音が響く。


「やはり警察ごっこをしてる組織。本業をやる物、腹が立つか?」「あぁ、立つさ。まぁ、しかしそう思っているのは私だけだと思うが…。」と、ウィズは右側にある窓から、外を見つめた。続けてこう話す。


「もはや警察もどきも、今や現代の警察になった…。」「ある意味、この町が望んでいる事なのだろう。」と、僕も窓の外を見て呟く。空が紫色になっていく。


「それでこれから君はどうする?私は隠れ家に戻り、他の仲間と連携し、体勢を立て直す。」ウィズは窓の外に向いていた顔を、また僕の方へ向けた。


「仲間がいたのか。」「あぁ、今までは一人だったが。ようやく上からの許可が下りたからな。特殊部隊でこの町を訪れた。」そうウィズは坦々と話す。


「また厄介な奴らが現れたな。」僕はそれを聞き、頭を痛めた。「まぁ、安心しろ。できる限り君を攻撃しないよう注意しておく。だがあくまで注意だ。君とは一応敵同士だ。それを心に取り止めといてくれ。」


「分かっているさ。」「それでこれから、どうするんだ?外ではフォド隊員がうろちょろしている。いずれここもばれるぞ。」


「とりあえずはノーヴィル第三地区六番街へと向かう。」「六番街?確かあそこもここと同じように使われていない住居が密集している。だがなぜそこなのだ?目的でもあるのか?」


「第二地区、三番街に近いからな。」僕は胸ポケットから、さっき盗んできた招待状をウィズへ渡した。


「これは?」ウィズは首を傾げながら、それを手に取り、中身を出す。そして嘗め回すように見つめた。「マイクが持っていた晩餐会の招待状だ。第二地区三番街にある館で明日の夕方、開催される。」


 ウィズはそれを手に取り、中身を出す。そして注意深く、嘗め回すように見つめた。「なるほど。だがしかし、この招待状を盗まれているのは百も承知しているだろう。入れるか?」


「そもそも、こんな服装じゃ入れない。潜入すればいい。警備はきつくなっているだろうが…。しかしこの晩餐会は各リーダーが集まる。そして首領も来るだろう。それだけの価値はある。」


「私も十分、承知だ。それだけの大物、我々にとっては美味しい。だがしかし、私がいなくて大丈夫か?敵一人殺せないような人間が。フォドを壊滅なんて。」「心配してくれてありがとう。そこまで僕の事を思ってくれるとは。」僕は両腕を組み、感慨深い目で、ウィズを見つめた。


「敵の心配もするのが私のモットー。何らおかしくはない。」と、ウィズは満足しきったのか、招待状を机に置く。そして椅子を引いた。床が削れる、不協和音のような音が両耳を刺激する。そして立ち上がり、扉がある方へ向かって行った。


「もう出ていくのか?」「十分休暇は取れたからな。」「それは良かった。」「貴様は行かないのか?」「もう少ししたらここを出る。」「そうか。それじゃまた、第二地区。晩餐会で会おう。」ウィズはそう言い残し、部屋を出た。扉が無機質に勢いよく閉まる。僕は茫然と見つめていた。


僕は一息ついた後、ゆっくりと立つ。もちろん椅子も穏やかに引く。歩き出す。向かう先はドアの反対側にあるタンス。そこには予備に置いてあった黒色のジャンパーが掛けてあった。僕はそれを手に取り羽織る。


 その後、僕はベットの近くへ行き、そこの近くに置いてある大きめのショルダーバックを手に取る。そのまま机へ向かい、その上に置いた。それは長年使い古されており、痛んだ傷が点で存在した。


ファスナーを開く。開いていくたび、音が徐々に高くなった。そしてそこに予備の弾丸が入った、手のひらサイズの弾丸ケース。両腕の修理に必要な工具を入れた、持ち運びサイズの工具箱。残り三つしかない保存用の缶詰め。携帯用の救急箱を詰め込む。


チャックを閉める。また音が鳴り響く。しかし今度は閉める度に、音程が徐々に低くなっていった。僕はショルダーバックを肩にかけ、玄関へ向かう。肩に重量がかかる。


ドアを開けると、陽の光が入り込む。それがまるでスポットライトのように、部屋全体を照らした。


僕はドア近くの壁に五つ張り付いている帽子掛けから、鼠色のキャップを取った。被る。そしてドアを開け、潜り抜けた。


 ドアが軋む音を立て閉まる。僕達は振り向かなった。それ以降、もうここには戻ってこなかった。室内も見ることはなかった。


錆びついた階段を下りる。そしてコンクリートで出来た道に足を付け、そのままノーヴィル第三地区へ歩を進めた。


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