第2話

  昨夜は珍しく夢を見た。それは心の奥底から見る思いでらしき物。シャンデリアが神々しく輝く。長机が部屋の中央に構え、その上に料理が置かれている。僕は椅子に座り、料理を見つめる。体は道回り小さかった。まるで小人になったかのような気持ち悪さ。


向かい側には少女が座っている。金髪で長髪だった。しかし顔は分からない。それでも美しいことは分かる。僕はそれでも誰であるか知ろうとした。だが同時に嫌悪感を感じた。でも知りたかった。まるで食虫植物に飛び込もうとする虫のように。


すると左側、声が聞こえた。男性特有の低い声。僕の集中はその声に向けられた。白髪で整えられた髪。がっしりとした頬。だが彼女と同様、そこまでしか分からない。


その男、カズヤ、人を導けと言う。少女はカズヤ、と一言話す。僕は訳が分からず、ただ頷く。しかしその時、目の前が白一色に染まった。


次いで木製の痛んだ机が見えた。机の上には工具箱が置かれている。鳥の軽快な鳴き声が谺する。僕ははっとした。首を左や右へ振るう。


 黄色い染みが辺り一面に付く壁面が、僕から距離を離して四方を挟んでいた。その右側、開き窓が埋めこまれ、陽光の光が問答無用に入ってくる。


僕は夢だと、頭を抱えた。「昔の思い出を夢で見るとは…。やはり嫌でもどこかで郷土の事を思う心はあるのか。」と、何か一種の悟りを開いたかのような、そんな話し方で呟く。


そして一息入れ、また呟き始める。「しかし今はハイドがいる基地への潜入だ。頭を入れ替えないと、こちらがやられる。」僕は右手で額をポンと叩き、気合をいれる。


そして工具箱から、四十四マグナム弾六個を取り出した。その後、左手脈当たりをいじくる。すると、まるで自動ドアの如くその部分が手前に開いた。そこから弾丸を一個、一個と念入りに装填していく。


僕はその間、残存とした夢の残りカスを整頓していった。しかし思い出は芋ずる式のように連鎖するもの。今度は雨の降る日、廃工場の中、茶色のハットを被った者が、僕の右腕を破壊する様相が。


それは思い出すだけで、右腕が耐え難い痛みの種となる。僕はそこで思い出すのを止めた。と、時同じくして、最後の弾丸が装填させた。


「最後の調整は終わった。さて…、行くか。」僕は装填が完了した。ふたを閉め、吹っ切るかのように椅子を引き、立ちあがる。そのまま左側の奥にある玄関に向かう。


ドアを開けた。そして朝の冷ややかな風に身震いさせながら、右側にある錆びた階段を下っていく。今日は一段と寒い風が吹きつける。肌身でそう感じながら、道へ出た。そのまま左へ方向転換し、三番街へ向かって行く。


 三番街は四番街より陰の部分が強かった。赤いレンガで敷かれた道は新聞紙や紙袋、空のペットボトルが辺り一面散乱している。だがホームレスはいない。それに紳士淑女の皆さんも。しかしやはりフォドの拠点近くだからだろう。僕は足を進める。


 すると建物の隅辺りにホームレスらしき死体が無慈悲に転がっていた。それが二つ。一つはよれよれの黒のスーツを着た男性。もう一人は今にも壊れそうなマフラーを羽織り、破けたパーカにズボンを着用した少年。前者は飢え死に。食べ物を得られなかったのだろう。後者は撲殺。手に財布を持っている。恐らく万引きをし、それがフォドに見つかりやられたのだろう。


僕はそんな二人の死体を歩きながら見る。その都度、目を閉じる。そしてそのまま進んで行った。


 青いコートを纏った男女が二人組を作ってうろちょろしている。ざっと見ただけでも三組いた。まるで番犬の如く、見回っている。これではホームレスも、紳士淑女も近づきたくはないだろう。警察まがいの奴らだからな。僕もこんな腕をしていなけば到底近づきたくはない。そう思いながら、僕は歩き続ける。


 そして僕は男の言っていた古本屋らしき建物を見つけた。ひとまず近くのコンクリートで出来た建物の間に隠れる。そこから古本屋を見つめた。


肌色のコンクリートで固められた二階建てだ。奥まった中央に、ガラス張りのドアが備え付けてある。そこからある程度、店内の様子が見えた。


細長い本棚が三列、奥へ続いている。手前に本を開き読む、青服の男がいた。その姿は金髪で、顔がやや細い。やはりここだろう。僕は心の中で思う。


 確証は取れたので、僕は古本屋に近づく。その時、左側の曲がり角に立ってある建物に人影が見えた。それは男性でハットを被り、スーツを着ている。まるで殺人事件を追う真面目な刑事の風貌だ。


 僕は彼の姿を見た時、何処かで見たようだなと思った。しかし今はその男の素性よりも、この店だ。そのまま彼を無視して古本屋に近づく。目線を感じたがそれでも気にしない。そのまま僕は古本屋に入って行った。


 中は青白い蛍光灯の光がきつく輝いている。その下に本棚が五列、ぎっしり詰まっていた。その間の通路の幅は、大人一人しか入れないほど狭い。僕は二列目と三列目の間の通路を通る。そこに人はいなかった。奥へ進んで行く。


奥へ着いた。ある物と言えば、中央にどっしりと構えるかのよう設置されたカウンターだけだった。眼鏡をかけた中年の男が葉巻を吸いながら、天井を見つめている。僕はカウンターへ身を寄せる。


「すまない、聞きたいことがあるんだが。ここの地下には秘密のバーがあるのかい?」男はこちらを見つめる。「珍しいお客さんですね。古本屋にバーがあるのか聞てくるなんて。」「いや、少し耳に入れただけですよ。あるガタイの良い男が話していたことを。」


すると男は眉間にしわを寄せ、こちらを睨みつける。すると後ろの方で足音が聞こえた。本を読んでいたあいつだろう。僕は両手を握り開ける。それを二回繰り返す。


「ほう、君が昨日をの二人を倒したのかね。」男は皴を寄せるのを止め、にっこりと笑う。「あぁ、そうだ。昨日、その男達がホームレスをいじめていたんでね。少しとっしめてやったのさ。」「なるほど。それはとても正義感があるものだな。」男は笑いながら、愉快に話す。しかしその笑いには生気は無かった。


僕も笑う。後ろの方で生々しい殺気を感じ取る。その時だった。鉄で出来た棍棒が頭目掛け、飛んできた。僕は体を左側にそらし、何とか回避する。やはり本を読んでいた男だった。彼は首を左側に曲げ、じっと見つめる。


「さぁ、早く済ませ。ナンバー五六五。しくじったらただじゃ置かない。」中年の男が冷徹な態度を取る。金髪の男はこくりと頷く。そして棍棒を強く握り、僕に襲い掛かってきた。


僕は体勢を整えた後、彼に向かって走る。男は棍棒を思いっきり振り落とす。僕は左腕でそれを受け止める。鉄同士が互いに叫び合った。店全体に響き渡る位。男はぽかんと口を開ける。その瞬間を狙い、右手で勢いよく男の顔を殴った。


 男は鼻孔から血を流し、倒れこむ。その光景を見た、中年の男は眉毛を上下に動かす。「ほぉ。なるほど。君はあの裏切り者ですか。残念ですね。あなたも総司令の側近だったのに…。それで自信の腕を捨ててまで…。」男は深く感心する。その直後、カウンターから三十八口径リボルバーを取り出した。銃口が僕の顔をじっと見つめる。黒く奥行きがあった。


ハンマーをゆっくりと動かす。「私は君には勝てない。しかし足止めくらいはできる。」男は遺言を言い残すかのような話し方だった。そして引き金部分に右手の人差し指を乗せる。その数秒後、引き金を引いた。店内は銃声の音色一色に染まる。勢いよく飛び出した銃弾は僕の額に向かう。しかし左腕右手の前腕部分で防いだ。それは反射的に。


銃弾はガンメタル輝く鋼鉄の腕は貫けなかった。そのままカンと言う音を響き渡らせる。まるでそんなものは通用せんとばかりに。そのまま勢いよく弾き返され、カウンターの隣の壁に突っ込んだ。


 男は驚くと同時に、こうなることは分かっていたという風な反応を見せた。その後またハンマーを動かす。僕はそんな隙は与えんと、素早く両足を動かす。一歩、一歩と。カウンター前に着いた。その上を飛び越える。そのまま左足を思いっきり、彼の左頬目掛け靴先をぶつけた。


眼鏡が吹き飛ぶ。それに付随して、男が左肩から押しつぶされるように激突した。男は倒れこむ。眼鏡も後を追うよう、カランと言う音を立てて床に落ちる。


僕はカウンター内の、男が座っていた椅子の隣に着地する。彼の倒れた姿をじっと見つめる。「こんな所で使うわけにはいかない。」男に向けて、捨てセリフを投げかける。その後、目線をカウンターの奥に向ける。プラスチックで出来た青緑色のドアが聳え立っていた。


  僕はそこへ向かう。冷たいドアノブを握った。そうしてゆっくりとドアを開ける。鈍い音が立った。その音を聞きながら、僕は中へ入って行く。






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