第21話 告白

 魔王様は、おれを自分の部屋へと誘った。いや、今は、と断ろうかと思ったが、久しぶりに酒が飲みたいという魔王様の晩酌相手として、ご相伴に預かることにした。


「そなたはこれから、子供達の親として振る舞わねばなるまい。そなたの部屋はどうする?」


 あー。そこまで考えてなかった。とりあえず、広間のソファが寝床になるかなって答えたら、魔王様がふふと笑った。


「もちろん、そなたの部屋を増築させると約束しよう。それでその。我は、きちんとデルタに謝らなければならないことがある」

「はい。なんでしょう?」


 なんとなくわかってはいるけれど、きちんと魔王様の口から聞かなければならない。


「我は、ミナトを愛してしまった。が、あの薬と一緒に、我の気持ちは彼から離れることとなる。そう、呪文をかけた。それに、ミナトが元気で生きていてくれるのならば、それで良いと、今では思っておる」

「そうなんですか」


 からん、とグラスの中で氷が溶ける。


「我を、嫌いになっただろう? そなたを裏切ったのだから」


 溶けた氷を指でかき混ぜながら、おれはたかぶった自分の心も冷ますように、ゆっくりと言葉を選ぶ。決して魔王様を追い詰めたり、不快にさせてはいけない。今は、余分なことを考えて欲しくないからだ。


「魔王様。誰だって、心の浮気くらいするもんですよ。まぁおれは、ずーっと魔王様一筋ですけど。けど、そんなことくらいで魔王様を嫌いになれたら、きっと楽になれるんだろうな、とは思います。つまり、そんな程度であなたを嫌いになんてならない。むしろ、愛しさが増しているくらいだ」


 これは、本当の気持ち。期せずして、二人の子持ちになったおれを、魔王様こそ、嫌いになったりしていないだろうか?


「これまで完璧主義だと思っていたあなたでも、回り道を必要とすることがあるんだということを知れた分だけ、おれはしあわせなんです」


 おれがそう言うと、魔王様はそうか、と短くつぶやいた。それから。


「デルタよ。都合がいいとはわかっているのだが、ミナトへの気持ちが一区切りついたところで、今朝の無礼を詫びたいと思っている。つれない態度を取ってしまってすまなかった。わっ、我はこれからは、もっと素直に、そなたへの気持ちを告げようと思っている」

「それって、つまり?」


 なんだか目の前が急に明るくなってきたような気がする。嘘だろ、おい。


「と、時が来たら。心の準備が出来次第、そなたとひとつになりたいと願っている」

「魔王様……」


 おれは、魔王様の白い頬を両手で優しく包み込んだ。愛しさが、増してくる。こんなにしあわせになれるなんて、夢にも思ってなかった。


「ふふっ。無理しなくていいんです。少しずつ、前に進めたら、おれはそれで満足ですから」

「デルタ」

「だっておれたち、こんな状態になっても、お互いに嫌いになることはなかったんですから。だから、ゆっくりでいいんです」


 その白い頬に赤みがさす。


「魔王様は、そのままでいいんです」


 こうして、おれたちは晴れて両想いになれた。こんな嬉しいことって、他にない。


 つづく

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