第19話 間一髪!? なるだろうかっ!? そしてその後は湯気多目

 水銀の中のルビーの顔が曇る。ここにきて、水銀がどんどん蒸発しているせいだ。


「帰って来て!! ルビーっ」


 こともあろうか、蓮華が水銀の中へと手を伸ばす。


「危ないからやめなさい」


 いきなり父親面されたところで、聞くわけがない。しかたなく、おれもすごすごと水銀の中に手を伸ばした。ありゃ? なんだかとても痛い。


「ならば、我もっ」


 魔王様まで手を突っ込む。


 一か八かのかけだったがなんとかルビーは魔界に戻ってこれた。そこで、水銀はジュッと音を立てて、一気に消えてしまった。


 危なかった。法律上の手続きはまだにしろ、養子に迎え入れた子供を失うところだった。怖かった。


 水銀の中から救出されたルビーは、肩で息をしている。痛かっただろう? 苦しかっただろう? けど、やり遂げてくれた。


 おれは、ルビーの髪をわしゃわしゃとなでてやった。照れ笑いを浮かべるルビーが、自分の本当の子供のように愛おしい。


 そして、そんなルビーに抱きつく蓮華。


「ありがとうな、蓮華。お前が、いや、みんなが手を伸ばしてくれたから、魔界に戻ってくることができた。魔王様、これでいい? もう、ミナト様がどうなったのかを確かめる術はないけど」

「これでよい。ありがとう、ルビー」


 だが、おれたちの体には水銀の名残のようなものが残ってしまった。


 子供の魔族には毒ではないが、大人の魔族には毒かもしれない。


 とのことで、四人で風呂に向かう。いつものように湯気増量のまま、各自距離をとって体を洗う。


 ああ、今朝、この風呂場で魔王様にあんなことを言われるまで、あんなに浮ついた気持ちでいた自分が情けない。まったく。魔王様の気持ちに気付いていたくせに、しょうもないなぁ、おれ。


 ざばっとかけ湯をして、頭から体までをがっつり洗い終えたおれは、今日一日分の疲れを取るべく湯船に直行。


 あー、気持ちいい。なんならここで寝ちゃってもいいくらいなんだけど、さすがにね。おれも食事してないし。空腹を満たさないとね。


 城の中はいつのまにか綺麗に片付いているし、洞窟の方もなんとかなりそうだし。


「ところでルビー、どうしてあの水銀から人間界に行けるってわかったんだ?」


 おれは、丁寧に蓮華の頭を洗ってやっているルビーに声をかけた。湯気で表情があまり見えないが、ルビーは今さらそんなこと、とばかりに蓮華の髪を柄杓で洗い流した。


「まぁ、色々とあってさ。ここ出て、おじさんの部屋に戻ったら、きちんと説明するから」


 うん。いいんだけどさ。おじさん呼びが気になるお年頃なんだよね。つづくわ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る