第18話 願いの薬

 事は一刻を争う。魔王様は丸薬の瓶ごとに願いと魔法をかけた。


 魔王様の手の中から出てきたのは、茶色の小瓶だった。その中に入っていたのは、初めて魔王様と出会った時におれがあげた、砂糖菓子だった。なんだか胸の奥がじわりと暖かくなってくる。魔王様。覚えていてくれたのか。


「我の大切な思い出と、願いを込めた。これを毎日一つずつ。それだけで病は徐々に治るはず。ルビーや、どうか無事に帰ってきてくれたまえよ」

「あったり前よ。蓮華、こっちに来い」


 小瓶を受け取ったルビーは、初めて蓮華を名前で呼んで、その額に口付けた。なんか、おれたちよりも進展が早くない?


「これで、お前を目印として帰ってこれる。いってくる」

「うん。気をつけてね」


 二人は名残惜しそうにしていたが、ルビーは飛び込むように水銀の中に駆け込んだ。少年の小さな体が溶けるように消えてゆく。違う。鏡の向こうの人間界につながっているのだ。


 ルビーは剣道場の裏で洗濯をしているミナトをめざとく見つけた。


『ミナト様!!』

『君は? だれ?』


 そうだよ。ミナトはルビーのことを知らないんだ。無謀だったのかもしれない。だが、おれたちに考える時間なんてなかった。


『これを。あなたを今でも大切に想っている方からお預かりしてきました。一日一つ。それだけで、病は治るはずです』


 不思議そうな顔をしていたミナトが、ふいに涙をこぼした。


『あれ? おかしいなぁ。ぼく、ひょっとしたら、その人を知っているのかな?』

『はい。遠い昔のことですが。そのお方は、あるお方の気持ちを裏切ってまで、あなたにお会いしたがっておりました。ですが、それはかないませんでした。ですからわたしが、代わりにこうして来たのです。信じてくださいますか? その方の、あなたへの想いを』


 小瓶を胸に抱きしめたミナトは、ありがとうとルビーにささやく。


『信じます。その方に、お礼を言ってください。そしてあなたも。ありがとう』

『それでは』


 短く答えると、ルビーはルビーの石を握って魔界へと戻ってくる。


 だが、あと少しというところで、水銀がぶくぶくと沸騰するように、激しく蒸発し始めた。


 早く戻っておいで!! おじさん待ってるから!! つづくよ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る