第17話 ルビーというコウモリ坊やは侮れない

 けど、もうなんだかすべてが手詰まりに感じるんだよ。魔王様はどうやって人間界にその薬を届けようとしているのだろうか?


 うっかり惚けてしまうおれのシャツを、後ろから掴む者がいた。ルビーだ。


「どうした? ルビー。眠れないのか?」


 そうじゃない、とルビーは首を左右に振る。その目はとても真剣で。


「二人に、見て欲しいことがあるんだ」


 うん? どうかしたのか? さっそく蓮華と喧嘩でもした?


 なんだかわからなかったが、大人にはわからないことでも、子供には重要なことってある。まぁ、場合がこんななのでアレなんだが、とりあえずルビーの後に着いて行くことにした。もちろん、魔王様も一緒だ。


 だが、そこはおれの部屋で。なのに、ルビーは慎重にドアをノックした。


「おれだ。連れて来たよ」


 すると、ご丁寧に鍵をかけて待っていた蓮華が、半分顔をのぞかせる。


「どうなった?」

「少しずつ蒸発しているみたい」


 二人の会話を聞きながら、部屋の中に入る。するとまたすぐに蓮華が鍵をかけた。


「どうした?」


 なぜかつられて小声になったおれへ、蓮華が小さな指を指す。そこには、イカリの鏡が割れてくだけたものが散らばっているはずだった。


 なのに、なんだか水っぽい。


「水銀?」

「帰ってきたら、こうなっていたんです。魔王様、今ならそのお薬を、ミナト様に届けられる最後のチャンスかもしれないです」


 確かに、端っこの方がじわじわと蒸発しているようにも見える。でも、どうして?


 なんて思う間も無く、魔王様は水銀の中に入っていこうとなさる。そこをおれたちが必死で止めに入った。


「魔王様はここにいた方がいい。人間界へは、おれが行く」


 勇ましくも、ルビーがこの案件を買って出たのには理由がありそうだが?


「おれ、何回か人間界に行き来していることがあって、これ」


 と、胸の中から真紅のルビーがついたネックレスを見せてくれた。


「これがないと、きっと人間界から魔界に帰ってくることができないと思う。そして、行き来できたのは、子供の魔族だけだったから」

「だが、どうしてそなたが?」

「だって魔王様、おれたちのことを助けてくれたじゃん。だから、今度はおれたちがあなたを助けたい。悪いけど、デルタおじさんとの会話は全部聞かせてもらったよ。コウモリは耳がいいから。で、あなたはミナト様を助けたい。そうだよね?」


 ああ、と魔王様が頷く。


「だったら、急いだ方がいい。ミナト様の顔は、洞窟の中で見た鏡で覚えた。おれなら、その薬を届けられる。だから、願いをかけて。その薬を、きちんとミナト様が飲むように、願いを」


 いったいどうなってしまうのかー!! つづく

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