第15話 綺麗事と侮るなかれ

 コウモリ族も、疲れているだろうに、おれたち四人を城まで背中に乗せて運んでくれた。


「ありがとうな。一休みしたら、おれもまた手伝いに行くから、君たちも無理するんじゃないぞ」


 すっかり仲良しになったコウモリ族とお別れを告げると、まだぽかんとしているルビーが、おれの前に立ちはだかった。うん、身長は蓮華の方が少し高いのか。


「どうした? ルビー。あ、ひょっとして君も、新しい名前が欲しいのかな?」

「あんた、バカなの? それとも変態なの?」


 うん? おじさん、ちょっとよくわからないなぁ。


 まぁ、ルビーもさ、あの親分の子供だからこうなったんだなって妙に納得するんだけどさ。


 だけど、あんまりルビーが真っ正直に怒っているから、おれはなんで怒られているのだろう? と自問してみたけれど答えはなく。


「名前なんて、つけていらないよっ。ただ、もしコウキみたいな変態だとしたら、それってあいつを酷い目にあわせるかもしれない。おれだけだったら我慢するけど、あいつにだけはダメだ。それだけは絶対に許さないっ」


 熱弁を振るうルビー少年。ははぁーん、さてはおれが蓮華をどうにかするために養子にしようという勘違いをしているらしい。


「そんなことを言うなら、蓮華がおれを誘うようにけしかけた連中から順にぶっ倒せばいいじゃん」


 まぁ、コウモリ族も、みんながみんな悪い奴じゃないことは、だいたいわかったけど。でも、蓮華に色仕掛けを強要させた奴だけは、おれも許せん。


「え? なに、それ? え?」


 戸惑うルビーから顔を背ける蓮華がいじらしい。


「お前、なんでそんな大事なこと、おれに言わなかったんだよっ!!」

「だって、失敗したら洞窟から追い出されるって脅されていたから。ルビーの、その、親分も死んじゃったし、だから、ルビーも一緒に追い出されたら可愛そうだから」

「バカかっ!! おれはお前のことが心配なんだよっ!! そりゃ、親父はお前が女の子だと思ってさらってきたけど。でも、その分、お前が危険なことをやらされないよう、注意してやっていたのを忘れたとは言わせないぞ」


 ほおほお。少しばかり遠回しだがルビーは蓮華のことが好きなんだな。確定。


「ごめん、なさい。でも、デルタ様にはなにもされていないし、勉強も教えてくれるって」

「なにのんきなこと言ってるんだよっ!! 剣の使い方も教えてもらえっ」

「うむうむ。それもきちんと教えておくとしよう。ちなみに、ルビー少年よ。君少しは剣を扱える?」


 おれが聞くと、ルビーはあったぼうよ!! と胸を叩いた。


「自分の身は自分で守らなきゃな」

「じゃ、おれが変態でもおバカさんでもないと納得してくれたのなら、これからは蓮華の護衛をしてもらうことを前提として、おれの養子になってくれないだろうか? 蓮華には言ってあるが、最初は小間使いから始めてもらうことになる。三食の食事と清潔な生活、安全な寝床は約束しよう。もちろん、二人が大人になったら勝手に出て行ってもかまわない。それ相当の教育は施すつもりだ」

「教育……」

「どうよ? 信じてくれる?」

「あんたは、本当に信用できるのか? 綺麗事でおれたちを利用するつもりじゃないだろうなっ」

「うーん? 綺麗事は好きだけど、君たちを養子にすることに関してだけは、綺麗事のつもりもないけど?」

「犬!!」

「は?」


 ルビーが突然目を輝かせて、おれに放った一撃は、ものすごく突飛すぎて、頭がついてゆけない。なに、突然犬って!?


「おれ、ずっと前から犬を飼いたかったんだ。捨てられた野良犬。あいつ、体はおっきいけど、本当は優しい奴なんだ」

「うん? もう手なづけてあると?」

「ああ。マサオって名前もつけてあるんだ。でも、洞窟では飼えないから、今、どこにいるのかわからない」

「よしっ!! じゃ、明日の朝、洞窟に行くから、ルビーも一緒に来い。そんで、マサオを探し出して、連れて帰ろう」


 その途端、初めてルビーが笑顔になった。


「やったぁ!! マサオと一緒に暮らせるんだっ!!」

「あ、すみません魔王様。おれまた、勝手に決めちゃって。犬、平気でしたよね?」

「うん? ああ」


 魔王様の気の抜けた返事を聞いて、今日はもうここまでだな、と解散することにした。


「し、しょうがないから、おれも養子になってやるよ」

「おっ。可愛いこと言うじゃん、ルビー。さぁ、二人とももう寝るといい。おれはみんなと雑魚寝するから、おれの部屋で眠りな」

「いいんですか? デルタ様っ」


 蓮華が目をキラキラと輝かせて確認する。


「ああ。ただし、まだ片付けがおわってないから、足元とか気をつけるんだぞ?」

「「はいっ!!」」


 二人は弾けるようにおれの部屋に向かっていた。部屋は、蓮華が知ってるもんな。


 そんなおれの背中へと、魔王様が頭を乗せてくる。


 ひゃー!! どっひゃー。つづく

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