第9話 穴と鏡

 魔剣を鞘から引き抜いた魔王様は、えいやっとばかりにあかりの漏れている場所へ剣を刺す。魔王様の魔力が剣を伝い、穴がほんの少しだけわかりやすくなった。


「デルタ、鏡を」

「ほい来た!! みんな、気をつけて」


 おれは主に子供たちに声をかけながら、穴にあわせて鏡をはめ込む。ガッチャンというあきらかにはまり込んだ音がして、鏡からまばゆいばかりの光が溢れた。


「みんな、まぶしいから少しだけ目をつぶってな」


 そう言うと、おれは鏡を直視しちゃっている魔王様の両目に優しく手をかぶせてあげた。魔王様の戸惑う息づかいがとても近くて、こんなおれを誰にも見られていなくてよかったと安心する。


 やがて、光の量が落ち着いてきて、鏡が見えるようになってきた。それは予測通り、人間界のようだった。


 最初に見えたのは、ユカリだった。清潔そうな白い部屋で、たくさんの管に繋がれたまま、目を閉じている。その傍らには、見覚えのない若い男の姿があった。彼は真剣にユカリに向かってなにかを話し、そしてぐったりとした彼女の白い手を握りながら、涙を流している。


 えーっ!? なにこれ、どういう状態よ? もしかして、ユウキもコウキも当て馬だったってわけ!?


 そんなユカリの顔は、初めて魔界で見た頃のように若々しく美しかった。魔王様には負けるけどな。


 少しすると、耳にキーンとくるような機械音が響いた。蓮華たちは、こらえきれずに耳を塞ぐ。あたり前だ。コウモリは耳がいいんだから。こんな不快な音、たまらないだろう。


 おれたちにとっての異音も、人間界では違うようで。やがて、ユカリがゆっくりとまぶたを開いた。


『だい、ちゃん……?』


 ユカリの弱々しい声に、だいちゃんと呼ばれた若者は、あわててなにかのボタンを押した。


『ユカリ!! ああ、本当に生きていたんだねっ!! よかったぁ』


 涙交じりに微笑むユカリは、だいちゃんの手をしっかりと握りしめた。


『だいちゃん、ごめんなさい。あたしがヤキモチ焼いたばっかりに、事故にあってしまって――。どのくらいこうしていたの?』

『一週間だよ。ちっとも目が覚めないから、すごく心配した』


 それから、白衣を着た老人や、白い制服? を着た女性たちがユカリの周りを取り囲んだ。


『よく、生きて戻ってこられましたね。複数の骨折はありますが、もう大丈夫です』


 白衣の老人に言われて、ユカリは満足げに微笑んでから、ハッとなって目を見開いた。


『あの二人は? ユウキとコウキはどうなったんですか?』


 それだ!! ユカリが生きているっていうのなら、二人にもチャンスがあるのかもしれない。


 けれどこの鏡も、あるいはおれたちの願望を見せているだけなのかもしれなかったけれど、それでも、元の世界に戻れてよかったなって思う。


 さてさて二人はどうした? つづくよー


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