第4話 鏡と人間界

 鏡はめちゃくちゃに割れていたけれど、そこに映っているのはおれの姿ではなく、おそらく人間界の景色のようだった。


「なんだ? これ?」


 これも、イカリの大事なものだったのか?


 そこには、イカリやミナトと同じ年くらいの少年少女たちが笑いながら歩いている姿や、まとまって勉強している姿、それに家族と談笑している姿へと、次々と切り替わった。


「それは、イカリ様の鏡です」


 コウモリ少年がおずおずと話しかけた。


「知ってるのか?」

「はい。コウキ様からのプレゼントでした。現在の人間界を映し出す鏡なのですって」

「へぇー?」


 でも、おれには興味ないな。


「ですが、これにもコウキ様の魔法がかけられています」

「はぁ? あいつ、灰になってなお、ややこしいことをしてくれてんの?」


 あきれたようなおれの言葉に、コウモリ少年が笑った。年相応の笑顔だった。


「そんな顔もできるんじゃん」


 よしよし、と少年の頭をなでた。


「え、えっと、そのっ」

「いいよ? コウキはなんの魔法をかけたの?」

「見た人の、見たいものを映し出す、とかなんとか。で、イカリ様は人間界に憧れていたから、コウキ様が人間界にいた頃の、子供たちの姿を見ていたみたいですね」


 うーん? するとこれは、イカリが見たかったもの? こんな風に、人間界で普通に暮らしたかったんだろうな。気の毒に。でも、事故じゃあな。


 ……うん? 事故?


 確かに、天井のパネルが落ちてきたんだろうが、被害にあったのは双子の親たち。ってことは、こっちに転生してきたと仮定しても、そんな状態で子供が生まれるとは思えない。


 そしておれは、ひとつの仮説に思い至った。


「なぁ、君さぁ、ひょっとして洞窟内で人間界を行ったり来たりしていなかったかい?」


 そう言って、少年の両肩に手を置いて、熱く話しかけていた。


 なんと、そのタイミングでドアが開き、そこからバツの悪そうな顔をした魔王様と目が合ってしまった。


 つづいちゃうよん


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