第48話 知ってしまったのだから、責任を取らなければならない

 イカリの気がすむまで泣かせていた魔王様だけど、おれたちの方もそろそろいろんな意味で限界が近い。


 正直に言うと、疲れた。


 少しでいいから休みたい。


 だけど、そんな弱音を吐くようじゃ、魔王様の側近は務まらない。


「イカリよ、これからどうしたい?」


 魔王様の問いかけに、イカリは袖口で一つ目から溢れる涙を拭った。


「おれ、人間に戻りたい。できることなら、もう一回生まれ直して、人生をやり直したい。けど、これじゃあ」


 イカリは変わり果てた己の姿にため息をつく。


「まずは、あなたのホーンを返すよ」

「では、回収させてもらう。……間違い無く、すべてを回収した」


 おお、魔王様の立派なホーンが完全復活ー!!


 けど、イカリの方は、異形の姿のまま、戻ることができない。魔族の血を浴びすぎてしまったのだ。そんなことを昔、どこかで聞いたことがある。


 もし、人間が魔族の血を大量に浴びてしまったら、戻るすべはないのだ、と。


 そりゃそうだ。イカリは、城の魔族に殺し合いをさせて、最後の一人を自分で殺してしまった。


 ならば、どうすればいいのだろう?


「おれ一人が、ここにとどまるわけにはいかないよね? だってみんな、灰になってしまったんだし」


 そっか。イカリはすべてを見ていたのか。


「ならば、どうする?」


 この期に及んで、魔王様のお言葉はどこまでも優しい。その慈愛に満ちた瞳に、おれたちは何度救われてきたことだろう。


「けじめを、つけなくちゃいけないよね? おれだけここで、修羅の姿のままじゃ、どっちにしてもみんなが救われない。だから」

「けれど、死を選ばないで欲しい」

「魔王?」


 魔王様の白い指が、イカリの肩に優しく触れる。


「でもおれは、おれのせいで」

「簡単に死を選ぶな。人として、できる限り生きて欲しいのだ。少なくとも、これからは」


 それが、魔王様が与える罰なのだ、とイカリも理解したようだった。


「それじゃ、いっちょ掃除でもしますか」


 血なまぐさい城のままじゃ、どうも気持ちが塞ぎ込んでしまう。おれはさっさと腕まくりをして、かつてモップが存在していた部屋へと足を向けていた。


 そのせいで、注意がそれた。


 何者かの影に気づいた時には、そいつはもう魔王様のすぐ近くまで迫っていたのだっ。


 つづくぅ

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