第47話 マリーの深い愛がもたらしたもの
それは、マリーからのメッセージだった。おもむろに開いたネックレスから、マリーの姿が投影される。イカリは頭をあげて、その姿を食い入るように見つめた。
『ミナト様。あなた様がこれを観ていらっしゃるということは、わたくしはもう生きてはいないのですね。
わたくしは、幼い頃、祖母にとても可愛がられました。両親からもそれはそれは可愛がられましたけれど、たくさんいる兄弟の中でわたくしだけ、祖母から引き継いだ変化の術があります。その力のせいで城の者に捕らえられ、他の魔族に変化の術を教えるよう強要されました。
変化の術は、時に人を騙す、危険な術です。わたくしはかたくなに拒み、そして守護のネックレスのおかげで殺されることもなく、侍女として、皆様のお世話をさせていただくことになりました。
そんな中でわたくしは、他の魔族にからかわれているわたくしを助けてくださったイカリ様に、うかつにも身分違いの好意を抱いておりました。ですが、そのイカリ様が大切なお兄様であらせられるミナト様に敵意を抱いていることにも気がついてしまったのです。
わたくしは、イカリ様からいつもとても高価な贈り物をくださろうとしても、どうしても受け取ることはできませんでした。
それは、もし、わたくしに贈り物をしたせいで、イカリ様の立場が危うくなったらと思うと、怖かったのです。
こうしてミナト様の身代わりになったのもすべて、イカリ様にミナト様を殺させてはならないと判断したからです。
イカリ様はとても高潔でいらっしゃる。ですが、自分の思いを伝えるのはとてもお上手とは言い難い大変不器用なお方です。それ故に、ミナト様を殺してしまってから、後悔して欲しくないと思ったのです。
ですが、相手がわたくしでしたら、なんてことはないただの侍女です。一人くらい居なくなっても、どうとも思わないことでしょう。
ミナト様、もし、これを観た後にイカリ様と再会されるようなことがありましたら、その時はどうか、兄弟仲良く、手を取り合ってくださいね。そしていつの日か、人間界に戻れることをお祈り申し上げております。
わたくしのことは、どうかお気になさらないでください。
お体にお気をつけて、お元気で、長生きしてください。
さようなら』
イカリは、咆哮にも似た声で泣きむせび、何度も何度も床を叩いた。魔族の紫色に染まった大理石の床を。
「おれは、おれはなんてことをっ!!」
もう、取り返しはつかないのかもしれない。すべてが悪い方向に進んでしまったのだから。
なぜ?
だけど、これでわかっただろう? 意味もなく誰かを好きになることがあるんだってことを。そして、無償の愛を捧げたくなる気持ちになることを。
魔王様は、そんなイカリの背を、優しく撫でてあげるのだった。
つづく
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