第46話 不確かな愛でも愛に変わりないんだよ

「グバァッ」


 おれの口から紫色の血の塊が溢れた。これまで、か。


「デルタ!! デルタ死なないでくれ!! 頼むから。約束したではないか……」

「へん、約束ねぇ? どうせ、くっだらない約束なんでしょう?」


 あのさぁ、イカリさぁ。さっきからずっと、おれたちに愛されたがっているよね? おれたちにとっての特別になりたいんだよね? 反抗期だから、心の中のモヤモヤってしたものを、どうすればいいのかわからないだけだよね?


「あの、さ……」

「デルタ!! 動くな。今、治癒魔法を使っているところだ」


 血相を変えた魔王様に、右手を挙げて止めに入る。


「や。血は吐いたけど、おれ、無事なんで」

「は? なに言ってんの? あんた。結構本気で重症だけど?」


 呆れ果てた顔をしているイカリへと、マリーのネックレスを見せつけた。


「こいつが守ってくれたんだ」


 そうしておれは、自分の心臓に刺さったぶっとい矢を引き抜いた。また大量に血が噴き出したけれど、傷跡はあっさりと塞がってゆく。


 これを、マリーが身につけていてたらな。


 けれど、彼女はこのネックレスをミナトに預けた。なぜ? おれはまだ、彼女の気持ちを知らない。


 そして、弓矢の本来の使い方をイカリに教えてやらなきゃならない。知識っていうのは、大人から子供に受け継がれていくべきだ。おれはそう思っている。


 若さゆえの暴走は、多少だったら見逃してやらないこともないが、度を越してしまったら一大事。そんな時に、大人がたしなめてやらなきゃならないんだ。


 そのために、大人がいるんだから。


「イカリさ、そこでよく見ておけよ。これが、本来の弓矢の使い方。お互いに想いあった愛の示し方。いつの日か、役に立つように、な」


 そう言うと、おれは魔王様の唇を奪った。最初はイカリの前だからと抵抗していたものの、途中でおれの考えていることが通じたのか、その想いに応えてくれるようになる。


 時間をかけた、熱い口づけ。弓矢っていうのは、好きな人との心の架け橋に使うもんなんだぜ。ま、おれたち魔族にキューピッドなんて会うこともないんだけどな。


「なっ、なっ!?」


 あまりの長い口づけに、イカリが戸惑いの声を上げる。攻撃を仕掛けてくる気配はない。


 じゃ、その先も。


 なんて考えていたら、魔王様に頭を小突かれた。やっべ。調子に乗りすぎた。


「同性だからどうとか、考える必要なんてないんだ。好きって気持ちさえあればいい。イカリ、お前、おれのことが好きだったんだな?」

「違うっ!! おれは、おれはマリーのことがっ」


 あーら、真っ赤になっちゃって。お子様には刺激が強すぎたよな。すこーし反省している。


「そう思い込もうとしていただけなんだろう? 男が男を好きでなにが悪い? ただ、おれは全面的に魔王様が好きだから、残念だけど君の気持ちに応えてやることはできないが」

「おれ、おれは……」


 イカリは玉座から滑り落ちて、大理石の床に四つん這いになる。


 その時ふと、マリーのネックレスが床に落ちた。


 いいところだが、つづくんだぜ

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