第45話 反抗期長めの坊や
おれたち魔族にとって、人間は人間界にしかいない存在だと、子供の頃に教えてもらった記憶がある。
それなのに、どうしてこうなってしまったのだろう?
コウキの言葉が本当なのだとすれば、ユウキとコウキ、そしてユカリの三人は、ゲームだかの会場で事故にあい、そしてここ、魔界に来てしまったのだという。
魔界に人間がいるのはなんだか落ち着かなくて。けど、魔王様はお優しい方だから、人間勇者御一行様ともめたら、せっかく肥えた大地に変貌した魔界を壊してしまうから、という配慮により、自ら負けを認めた。
だが、その後は最悪で。特にイカリの歪んだ性格をどうにかしてやれんのかね、と無意味な思考に溺れること数回。
答えなんて出るはずもなかった。
だって、イカリは反抗期だもんな。結構長い反抗期になってしまったのは、どこかでコウキとユウキの関係を知ってしまったからなのだろう。
で? なんで二人が愛しあってはいけないんだ?
ひょっとして人間界では、そういう差別が氾濫しているのかな?
おれは魔王様に出会ってからの自分を否定するつもりはない。魔王様を大好きだと思う気持ちは一秒ごとに更新されるし、魔王様もおれを好きだと言ってくれた。
魔界が特別だって?
そんなわけがない。魔界にだって差別はあるし、同性で好き合っていたら気味が悪いと毛嫌いする者もいる。
高度な知性を持つ魔族は、格下の魔族に嫌がらせをするし、なんなら戦いで決着をつけることだってある。
だから、これは正当防衛なんだ。
今、ここでイカリを救うことができなければ、おれたちは深く後悔することになる。
人間から魔族になりつつあるイカリを修羅にしてはいけないのだ。
「ゲイがそんなに悪いことかい?」
おれの質問を、唾を吐いて答えるイカリ。
「ああ、そんなの認めたくないね」
「でもさぁ? よーく考えてごらんよ。動機はなんであれ、君たちはやっぱり両親の愛の結晶であることに間違いはないんだからさぁ」
「そんなこと、気安く言うなっ!!」
イカリはおれに、魔法の矢を何十本と投げてきた。これ以上魔力を使ってしまったら、自分の命も危ういのに。困ったお坊ちゃんだな。
「愛情なんてどこにもなかった。おれが、その答えだろう?」
「イカリよ。愛には様々な側面がある。必ず美しいとは限らないのだよ?」
魔王様のお優しい言葉も、今のイカリには通用しない。ただ盲滅法に炎を灯した矢を投げつけてくる。
「いかんな。ホーン回収!! ……できない、だと?」
「魔王はさぁ、そんなに綺麗な顔していて、大事なことにまだ気づかない? あんたの魔力も、おれが吸い取っているんだよ。だからこの力は無限なんだ」
有限、無限。できれば愛は永遠に保って欲しいものだが、残念ながら磨耗することもある。
誰かを深く愛し、そして裏切られたと思えば、その愛は狂気に変わる。
「それならば、我の魔力を吸収しつづければよい」
「あれ? 許してくださいって謝らないの?」
「おまっ、魔王様になんてことを言うんだっ」
「魔王はいいよね。いつもそいつがかばってくれてさぁ」
これまでわざと矢を外していたのだろう。おそらく、なんらかの期待を込めて。
炎の矢は、とても鋭利に尖り、そして真っ直ぐにおれの心臓を貫いた。
非常事態なので、つづく
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