第43話 痴話喧嘩、その後
「じゃあ、あの場合に魔王様はなにか策があったのかよっ!? コウキは自分の意思でそう望んだんだぜ。それなのに、受け入れてやらなかったら、あいつ絶対に後悔するじゃんよっ」
ううううっ、と低くうなって、魔王様はおれを殴った拳を握る。その手があんまり強く震えているもんだから、おれは魔王様を抱きしめた。
「ごめん。でも、おれにはああするより他に策がなかった。もっと優秀な部下だったら、別の方法があったのかもしれないのに。ごめんなさい」
こうして何度、魔王様の涙を拭ってきただろう。魔王様は言葉もなく、ただ、声を震わせて泣いていた。
おれの手の中には、マリーが残した守護のネックレスが握られている。これを、魔王様につけていれば――。
だが、おれの浅はかな思考なんて、魔王様には見え透いていて。ネックレスをおれの手の中に握り込めた。
「忘れてないぞ、デルタ。そなただけは、絶対に守る。そなただけは、死なせるわけにはいかないのだ」
「魔王様」
あーあ、こんなことをしている場合じゃないんだけどな。そう思っても、おれの手はポケットからハンカチを取り出して、埃まみれの魔王様の顔を拭った。
そして、楽しみに取っておこうと思っていた口づけをかわした。
ん、と、甘い息が魔王様から漏れる。もっと。もっと、と体が求めるけれど、今はダメなんだ。ごめんね。中途半端にしちゃって。
「魔王様、おれね。おれ、初めて会った時から魔王様のことが大好きなんです」
「前もその話は聞いたぞ。そして、我も同じ気持ちだ」
「だから、魔王様を守れない場所に、おれ一人で行くわけにはいかないんだよ。おれ、あんたのことをこの先もずっとずっと守り通すって決めたんだから」
「デルタ……」
そうして音を立てて、もう一度軽く口づけた。
「必ず、城を奪還して。そして、このつづきをさせてください。お願いします!!」
魔王様の、体の震えがやわらいだ。よかった。これで戦える。
魔王様、おれ、ひとつずるいことをしました。
おれの命に代えてもあなたを守るって、言わなかった。だってそう言ったらあなた、絶対にそれは許さんってなるでしょう? 前にもそんなことがあったから。だから、これでいいんです。おれは、あなたさえ守れたなら、おれなんてどうでもいいんです。
魔王様、愛しています。自分でも信じられないくらいに深く深く愛してしまっているんです。
あなたの笑顔が見たい。
あなたに笑っていてもらいたい。
あなたの愛を独り占めしたい。
おれだけのあなたでいてほしい。
すべて、おれの欲望です。
初めて本気で殴ってもらえたこと、すごく嬉しかった。
これで、思い残すことはない。
さぁ、行きましょう。そして、イカリをとっちめて、最後のホーンを取り戻すのですっ!!
一応断っておくけど、フラグじゃないからつづく
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