第42話 二人が選んだ道

 ったく、信じられない、と、さっきまで腑抜けていたはずのユウキが力なく笑う。ああ、ユウキも、ホーンの力を使いすぎちまったんだな。


「これから派手な女を相手にするけど、お前とは将来一緒になるつもりでいるから待っててくれって、そう言ったのに」

「……ごめん」

「なんとなく、忘れてるんじゃないかなとは思ってたさ。お前が本気でユカリにヤキモチ焼いていた時にさ。でも、お前のそういうリアクションが楽しかったから、もうしばらくって思っている間に、なぜだか魔界にいて。だったら、早いところユカリに子供産ませて、子供たちが成人したらお前と一緒に暮らそうって思って。それで、洞窟に閉じ込めておいたのに」


 ユウキもさぁ、そういうところがよくないんじゃないの? 言いたいことははっきり言葉に出して言わなきゃ伝わらないんだ。


「なのに、ユカリはコウキにモーションかけてるって知って、気が気じゃなかった」

「ごめん。な?」


 コウキは優しくユウキを胸に抱きしめた。そこで、コウキの頭の上の鹿の角がちゃっかり邪魔をする。


「なのに、勝手なことばっかりして。こんな姿にまでなって。コウモリ女まで使ってまでおれを奪いたかったのなら、自分でここまで来ればよかったんだ。夜は洞窟から出られたんだからさ」

「本当だ。けど、がある」


 ユウキは乱暴に鹿の角を折った。痛っ、と短い悲鳴をコウキがあげる。


「ヤッてくれ。おれはもうそう長くない。だったらせめて、お前の手でおれを殺して欲しい。魔王、いろいろ引っ掻き回して悪かったな。ホーンのカケラ、回収してくれよ」


 やつれてはいたけれど、やけに清々しい顔でユウキがお願いしたものだから、この後どうなるのかを予測しているにも関わらず、魔王様はユウキからホーンを回収した。


 すでに立っていることもままならないユウキは、最後の力を振り絞って、コウキの唇に自分の唇を押し当てた。


「もし、生まれ変わりとか、そういうのがあったとしたら、その時は」


 ユウキの言葉に答えるように、コウキがもう一本の角を折る。


「その時は、今度こそ、おれがユウキを離さない。絶対に、だ。だから、一緒に行こう?」


 コクリとユウキが微笑んで頷いた。


「魔王、頼みがあるんだけど」

「なんだ? ユウキ」

「イカリを、止めてくれないか? あいつはおれのコウキへの本当の気持ちを知っているんだ。だから、あんな風になってしまった。だから」

「承知した」


 短くそう答えた魔王様は、その惨劇を見ないように、おれの背中に隠れた。


 そして、コウキはユウキの心臓に鹿の角を突き刺し、ユウキはコウキの心臓に同じように鹿の角を突き刺した。


 だが、お互いに完全燃焼には至らない。もうそんな力など残っていないからだ。だから二人は、手を繋いで石畳の上にうつ伏せに倒れた。


 しばらく荒い呼吸を繰り返していた二人は、やがて灰になり、粉雪と混ざって消えてしまった。


 魔王様のホーンは、あと少しで完璧に戻る。けど、それにはイカリをなんとかしなければならない。


「デルタよ、こうなると知っていて、コウキからネックレスを預かったのか?」

「……だって、そういうことでしょう!? ぐっ!?」


 気づいたら、魔王様に平手打ちをされていた。


 自業自得だけど、つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る