第40話 コウキ、発見する
「おかしいな」
慟哭する魔王様を励ましながら、おれはあることに思い至った。
確か、ミナトはマリーの守護のネックレスを持っていなかったか? そのネックレスを持っていれば、直接攻撃はできなかったはず。
それに、おれたち魔族と違って、なぜ人間であるユカリとミナトは灰になってしまったのだろう?
「なぁ、コウキ。そこいら辺に、ネックレスが落ちてないか探してくれないか? 大事なものなんだ」
おれは、呆然とする鹿男、コウキにお願いをした。魔力もない、今の彼には、これくらいしかできないだろうから。
「デルタ」
「魔王様、大丈夫です。きっと、なにかのからくりがあるような気がしてならないんです」
おれの腕の中でうなだれている魔王様を直視できない。
魔王様は泣いている。涙こそ流していないが、長い付き合いのおれにはわかる。
魔王様は、ミナトのために泣いているんだ。
と、いうことは。魔王様にとっても、やっぱりミナトは特別な存在だったのだ。
恋敵が死んだからって、喜べるはずがない。魔王様はこの気持ちが恋だということにすら、気づいていないのだから。
だから、この隙にどうこうしようなんて考えはない。だってそんな卑怯な真似をしたって、いつか魔王様は気づいてしまうから。その時、おれのことを嫌いになって欲しくはないから。
「あったー!!」
コウモリと一緒になって、枯れ草を探していたコウキが、キラリと輝くネックレスを発見した。そうして再びコウモリの背中に乗って、おれたちの前にネックレスを掲げてみせた。
「これのことだろう?」
「ああ。すまない。コウキ、このネックレスはそなたがきっちりと首にかけて保管しておいてくれまいか?」
魔王様の言い分は最もだ。コウキの身を守る為には、このネックレスに頼る他ないのだ。
「おれ、あの時見たんだ。ミナトはユカリともみあっているうちに、このネックレスを落としたんだよ」
ああ、それで、か。しかたないけどさ。なんだか悔しいな。
魔王様、メンタル持つといいんだけど。
「あの、さ」
コウキがおれたちに顔を背けて言い淀む。雪が、目の中に入って痛い。
「おれも灰になるのかな? その、時に」
「多分、な。だからそのネックレス、ちゃんとつけていろよ」
ああ、と答えると、コウキはネックレスを指で触れた。
「痛いのかな? 灰になると」
だんだんコウキに腹が立ってきた。魔界にとって、神秘な生き物とされる鹿を殺してその肉を食い、鹿の痛みや苦しみも考えずに、自分が死ぬことが痛いかと問うこの男が許せなかった。
いや、おそらく本当に許せない相手はイカリなのかもしれなかったけれど、能天気なこの男が、瞬間的にどうしても許せなかった。
「痛いだろうよ」
つっけんどんにそう答えると、なおもコウキは言い淀む。
「灰になっておれたち、どこに消えるのかな? って、本体はもう消えてるか。ははっ」
「笑ってんじゃねぇっ!!」
ユカリもミナトも、もう笑うことすらできない。おれたちは誰も救えない。魔界すらも。
「……ごめん、なさい」
消え入りそうなコウキの声は、頭の中にこびりついて、更に不愉快になるだけだった。
そしてまたつづく
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