第39話 ミナト、悶絶する

 イカリが相当嫌な奴だというのは予測できていたけれど。まさか血を分けた双子の兄にバケモノになる魔術を使っていたとは。いやはや、呆れ果ててなにも言えなくなる。


 そのミナトは、自身の良心と戦っているのだろう。なにやらブツブツ言いながらも、力を抑え込もうとしている。


 そして、それは起こってしまった。


 ゆらゆらと蠢きながら、城へ戻ろうとしていたユカリの背後に手をかざすと、彼女を跳ね飛ばすように高温の弓矢が飛び出し、そして実の母を貫いた。


「う、ゔぁぁぁぁぁっー!!!」


 無残にも、ユカリの体は地面に落ちる前に灰になって消えてしまった。


『母親殺しの罪はどんな気分だ? ミナト』


 かなりひずんでいたが、それは間違いなくイカリの声だった。


「なんてことをっ!! 母さんを殺すだなんてっ!!」

『あんなの、母親でもなんでもない。気持ち悪い女だった。なぁ、そう思うだろう? あっははっ。驚きすぎて小便ちびったか? 相変わらず臆病な奴だな』

「うる、さいっ!! どうしてこんなことにっ。マリーは、ぼくたちが手を取り合って仲良くすることを望んでいたのにっ」


 ミナトの喉から、血が溢れた。


『うるさいのはどっちだよ? お前なんて、最初からいらなかったんだ。お前さえいなければ、最初から城はおれのものだった。お前がいらないんだよっ!!』

「ぐっ、がぁぁぁっ」

「いかん。これ以上はミナトが持たない」

「ちょ、魔王様っ!?」


 魔王様は危険を顧みず、空中で悶絶するミナトを助けに近寄る。


『ほぉら、ミナトのだーい好きな魔王が来てくれたぜ。殺せよ。お前のその手で、魔王を殺せっ!!』

「やっ!! 来るなぁっ!!」


 ミナトはだらだらと血を吐きながら、イカリの指示に抵抗している。そして魔王様に、そばに来るなと言っている。


「あなたを殺さなきゃいけないくらいなら――」

「ミナト、よすのだ」


 ミナトは自分の両手で自分の首を締め付けた。


『そうか、自分でケリをつけてくれるか。なら、それでもいい。おれは昔からお前が嫌いだったからな』


 イカリの声はどこまでも冷たく、容赦がなかった。


「ごめんね、魔王。ぼく、あなたのことが、好き、でし……、がぁぁぁっ」


 眼前で、ミナトの体が握りつぶされたようにぺちゃんこになった。それが、イカリの仕業だとわかったものの、時すでに遅し。ミナトは空中で生き絶え、そして母親のユカリの時のように灰になって消えた。


 ミナトから回収しきれなかった分のホーンのカケラは、自然と魔王様のホーンに収まった。だが、これではなんの解決にもならない。


「う、わぁぁぁぁっ!!」


 どこにも吐き出せない苦しみを、魔王様が空に向かって叫んだ。その苦しみは、粉雪となり、激しく舞い降りてくる。


 そして、つづく

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