第38話 蛇女、心の叫び
知ったことか。そう思ったが、イカリを修羅にしてしまった一因はおれたちにもあるかもしれなくて。
でも、だからこそ、自分の兄弟や母親を殺すなんて間違ったことはさせちゃいけない。
あいつは魔族じゃない。人間なのだから。
「そういうことなら手を組まないか? 我らがそなたに負けたことにして、イカリを立ち直らせる」
やっぱりな。魔王様はどこまでもお優しいから、そういう提案もなんてことないみたいに投げかけちまう。あなた、魔王様でしょう? プライド的なものがあるでしょう?
そう問いかけたところで、魔王様の返事はこう返ってくるだろう。我は、民のためならプライドも捨てよう、と。
「そんなのっ!! 今のあの子には通用しないわ。ユウキはすっかり腑抜けになっているし。あたし、もうどうすればいいのかわからないのよっ」
さめざめと泣く蛇女。もうさ、女の武器使えるだけ使うよね、あなた。
「だがイカリはそなたの子供であろう? だったら少しくらいならば、話を聞いてもらえまいか?」
「あの子は修羅よ。もうあたしの子供だなんて思いたくもない」
「母さん、ひとつだけあるかもしれないんだ。ぼくたちが生き延びる方法」
と、ここへきてミナトがたのもしいことを言ってくれている。
「なに!? なんなのっ!?」
「ミナトに、見せたいものがあるんだ」
そう言って、ミナトは首に下げていたネックレスを手で触る。
「それは?」
「これは、マリーがとても大切にしていたものだよ。そして、このネックレスの中には、彼女の遺言が込められている」
ミナトは寂しそうにうつむくと、ネックレスを手の中でもてあそぶ。
「イカリはマリーがぼくのことを好きだと思っていたみたいなんだけど、それはまったくの見当違いだったんだよ」
「そんなの。今さら言ってなんになるの? マリーはもう死んでしまったのでしょう?」
「母さん、なぜそれを知っている?」
「うっふふっ。だって。マリーは元々あたしがあなたたちのどちらかをたぶらかすように仕込んであったのだもの」
ヒヤリと冷たい風が頰をないでゆく。ここまで歪んだ親子関係は、魔界でも滅多に見たことがない。
「だから。イカリがマリーのことを好きになるのも、マリーがイカリを好きになるのもしれたもの。邪魔者はミナトだけだったのよ」
母親に、邪魔者呼ばわりされたミナトは苦しそうにうめいた。その心中を察すると、おれの胸も痛くなる。
「そう。だからね、ミナト。あなたも修羅にならなくちゃいけないの。それがイカリのご希望なのよ」
邪悪な笑いをみなぎらせるユカリの腕の中で、ミナトが苦しそうにうめいた。
「あんた、ミナトになにをしたっ!?」
おれの言葉に、ユカリがニヤリと笑みを浮かべた。
「ちょっとした邪気を流し込んだだけよ。後は、この子がイカリに操られるだけ。絶望の更に絶望の淵まで落ちて、イカリの操り人形になるの。うっふふ。ここまでがあたしの役割。じゃあ、おわったからあたし戻るわね」
ユカリはあきらかに人ではなくなりつつあるミナトを置き去りにして城へと戻って行く。
くっそう。イカリの奴、ミナトにどれだけ魔王様のホーンを飲ませたんだよっ。これじゃあ、魔族を飛び越えて、バケモノじゃねぇか。
震えながらつづくのだ。
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