第37話 蛇女、暴れる

 現在おれと魔王様は空中に浮いているわけだが。コウキとミナトは飛べないから、コウモリ族の背中に乗せられている。


 一方の蛇女ユカリは、どんな手を使ったのか、もはや知りたくもないが、やはり浮いている。大蛇の部分が色濃く残った尻尾は、ウネウネときみ悪く動く。


 こんなことを言ったらミナトに怒られるかもしれないが、おれってこう見えても爬虫類苦手なんだよね。


「そう? 残念だわ。交渉決裂ね」


 言うが早いか、ユカリはぱかりと口を開いて、長い舌を伸ばしてくる。その舌は、無防備なミナトをあっさりと捉えてしまった。


「わりっ。忘れてた」


 坊やがあんまり大人しいもんだからさ。それに、まさか蛇女に狙われるとは思ってなかったんだ。だって腐っても母親。自分の子供の命を脅かすことはしないと思うだろう?


「あっははっ。人質没収ー!! あたしって天才だわっ」


 笑いながら宙でうごめく尻尾の部分が踊るようにおれたちを脅かす。


「ほーら、あたれ、あたれ!! あんたたちのせいで、ミナトが死んでもいいの?」


 カチーンときたね。もう女だからとか、人間だからとかで手加減するのはやめにした。なんなら本気でやっつけさせてもらう。命までは取らないけどな。


 けど、そう思ったのはどうやらおれだけじゃなかったみたいで。魔王様が接近戦でミナトを取り返そうと魔法を繰り広げる。


 ユカリはそれはそれは楽しそうな笑い声を上げて、右に左にと簡単に避けていた。


 それだけじゃなく、ユカリは大蛇の尻尾を巧みに使いこなし、おれたちの尻をペチペチと叩くではないか。そのあまりにも激しい攻撃に怖気付いた、ミナトを載せてきたコウモリは飛び去ってしまったほどだ。


 本当はコウキを載せたコウモリも逃げたかったんだろうけれど、さすがにプライドが許さなかったらしく、健気にも耐え忍んでいる。


「ほーら、ほら。悪い子にはお仕置きをしてあげなくちゃねん」

「こっの、蛇女!! 暴れるなっ!!」


 おれの叫びで更に気を良くしてしまったらしいユカリは、狙いをおれに定める。やべー。闘争心に火をつけてしまったー。


「あっははぁーん。おっもしろぉーい!! ほぉーら、もっといい声で泣きな!」


 あー、もー、面倒くせぇ。


「母さん、デルタがかわいそうだよ。こんなこと、もうやめてよ!!」


 さすがは優等生のミナトだ。だが、緩んでいたユカリの顔が一瞬で凍りつく。


「やめられないのよ。あたしだって、本当はここまでする予定じゃなかったわ。でもあの子が。ここで負けたら、あたしだってイカリに殺されちゃうのよ」


 なぬっ!? イカリの野郎、自分の母親を殺すだってぇ!? そうと聞いたら、こんなところで油を売っている場合じゃねぇ。


 つづくしかないし。


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