第36話 蛇女とダンスは踊れるのか!?

「えーと、答えはわかりきっているんだが、あんたもしかして魔族の大蛇を食べちまった?」


 これでも最大の敬意を払ったつもりだ。なんせ後ろにはミナトが控えている。うかつな言葉で繊細な少年を傷つけてはいけない。


「ええ。あの人すごいのよ。あたしにいろんなことを教えてくれて。大蛇を食べれば、その一部になれる、なんてことまで教えてくれたわ」


 ああ、目がヤバい方角を向いている。どうしたものかなぁ。


「えっと。あの薬師のことなんだがな、ユカリ。あれは――」

「あなたのことはもう吹っ切れたわ、コウキ。ゲイのあなたをとりこにできたらあたし、思い残すことなんてないと思っていたけれど、魔族と一緒の方がすっごいのだもの」


 あー。えと。ミナトくん、悪いんだけどまた耳塞いでおいてくれる? 純粋な少年は、おれのジェスチャーだけで耳を塞いでくれた。


「ユカリ、いつからおれがゲイだって知っていたんだ?」

「大学の頃からね。あたしはてっきり、あなたがユウキをダシに使ってあたしを口説いているのかと思っていたんだけど。途中で男友達に教えてもらったの」


 どうやら、ユカリの方が策士に向いているらしかった。結局、この女は誰のことも愛してないんだ。自分だけが可愛い人間なんだ。そんな奴の子供で生まれちまったミナトとイカリが気の毒でならない。


「それから。一応断っておくけど、子供たちはちゃーんとユウキとの間の子だから。おかしな詮索はしないでちょうだい」


 そっか。それはひとつだけ肩の荷がおりたな。が、蛇女ユカリは、とぉーってもいかがわしい目で魔王様を遠慮なく眺める。


「うふぅーん。あなた、確か魔王だったわよね? どう? あたしと組んで、ユウキを追い出さない?」

「その策に乗る気もないが。そなたはもう、ユウキのことすら愛してはいないのか?」

「ぷっ。あーんな男。体育会系で威張りたがりでつまんない人なのよね。それよりもあたしはもっと、ドラマチックに生きたいの」


 おれから見れば、蛇女になった状態で、すでにドラマチックだと思えるんだがな。


「ふふっ。あなたも結構いい男だし。共謀してユウキをいたぶらない?」


 ユカリの視線はおれにまで伸びてきた。あーあ。本当に嫌な女だな。面倒臭いし、蛇女だし。


「こう見えてもあたし、ダンスが得意なの。ユウキをいたぶる前に、ちょっとだけ試してみない?」

「断る」


 魔王様はにべもなくユカリの提案を断った。やーい、やーい、ざまーまろ!!


「んふっ。断られると、燃えちゃうタイプなのよね」


 ダメだこりゃ。こんな母親から、こんなに純粋なミナトが育つなんて、不思議なもんだな、まったく。


 てなわけで、つづく

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