第32話 ホーンのカケラ
「さ、魔王様。とりあえず丸薬を飲んでください。薬はおれが塗りますから」
そそくさと魔王様とミナトを引き剥がしたおれは、魔王様の状態を確認する。
頭痛といい、腹の傷は結構深く刺さっていた。けど、見た限り、内臓に達してはいないようだ。とりあえず止血して、塗り薬を塗りたくる。
「うっ」
魔王様が苦痛の声を漏らすなんて、こりゃ相当痛いんだろうな。
「ごめんなさい。ぼくのせいで。あ、ぼくの体からホーンのカケラを取り出してください」
「気持ちはありがたいんだが、坊や。それは一番最後にとっておくから大事にしておきな」
また、魔王様に心の負担をかけたくなくて、おれがぴしゃりと言ってやった。
「最後って? あの、どうして? だって、ホーンのカケラさえあれば、この人の苦痛がやわらぐのでしょう?」
「ミナトさぁ。根本的なところを思い出してみ? どうして君の体に、魔王様のホーンのカケラが必要になったのか、を」
え? と、ミナトは困惑する。無理はない。あの時、ミナトはまだ五歳だったもんな。
「お前、謎の高熱で死にかけていたんだ。だから、魔王様のホーンのカケラで生き延びることができた。それを取り除いたら、お前は死ぬかもしれない。だから、最後までとっておくと言ったんだ」
「あ……」
鈍いお坊ちゃんだな。でも、まぁ本人に悪気はないわけだし? しかたがないんだけどな。
「そなたが責任を感じることはない。ひとりでも多くの者が飢えに苦しまないよう、また物理的な苦しみから救い出すのが我のさだめなのだから」
それまでずっと、様子を伺っていたコウキが、ここにきてようやく口を開く。
「魔王様ってなんか、想像していたのとは違うんだな」
そう。おそらく人間たちが想像している魔王というものは、残虐非道でみなを苦しませる、とんでもない野郎のことだと思う。だが、魔王様は全然違う。
それは、ジャスティスとしてまずしく飢えた環境で育ってきたこともあるが、彼の本質がとてもお優しいからなのだ。そのことをどうか、わかってもらいたい。
「おれ、なんにも知らないで鹿の角欲しさにこんなことして。恥ずかしいよ。あの鹿に謝りたい」
だったらきちんとわびてやれ。そうすりゃその鹿の魂も、少しは気が晴れるかもしれないからな。
「ぼくも、反省しなきゃ。簡単にイカリの言いなりになって、恥ずかしい」
そうだな。ミナトは少し、自分の頭で考えて行動できるようになるといいな。そして、なによりも健康第一だ。こいつを救うのは、また一悶着ありそうだけどな。
そんでもってつづく。
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