第30話 悪運の強さは本当に運がいいのだろうか?

「取り乱しているところを悪いが、ミナトから我のホーンのカケラを取り戻せば、おそらく彼は死んでしまうであろう。だからこそ、人間界へ帰らせたいと願っているのだが、そなたの話が本当ならば、ミナトもイカリも、人間界では存在しないということになるのだが?」


 え? と、またコウキが取り乱す。


「だが、あるいは……」


 魔王様はなにかを思いついたような顔をしていた。でも、うかつに言葉に出したりはしない。うっかり希望を持たせて、相手を絶望させたくないからだ。たとえそれが、鹿を殺し、食した人間であろうとも。


 眼前に懐かしい魔王城が見えてくる。いや、今は勇者城ということか? それとも、ミナト城か? 厄介ごとは増える一方で、両想いになった今でも、おれと魔王様はいちゃつく暇もない。もうがっかり。だから、ここはガツンと人間たちをこらしめなくちゃいけなくて。


 でも、お優しい魔王様に、果たしてそれができるだろうか?


 心の奥に、わずかな嫉妬の炎が燃える。


 魔王様は、こんな状態になってなお、ミナトの心配をしている。本当はおれなんかじゃなく、ミナトのことが好きなんじゃないのか?


 魔王様はご自分の気持ちに鈍いところがある。だからこそ心配なのだ。


 たったわずかな間にたくさんの死に遭遇してきた。もし、目の前でミナトが死んだりしたら、魔王様は二度と立ち直れなくなるんじゃなかろうか?


 またご自分を責めて、苦しむのではないだろうか?


 おれに、そんな魔王様を救うことができるのだろうか?


 答えを考えることはとてもむなしくて。だからこそ、これ以上の被害を出すわけにはいかないんだ。魔王様を守るということは、同時に魔界のみんなを守るということ。それができないのならば、恋人である資格なんてないのだから。


 わりとシリアスなまま、つづくのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る