第23話 やだぁ。いちゃつかないでぇ。みたいな感じ

「我に気安くさわるでないっ!!」

「やぁーだなぁー、もう、照れちゃって」


 で。気がつけば、どこかの洞窟の中。人間界から持ってきたようなお綺麗な照明に照らされた穴の中は、思っていたよりも広く、いくつもの道に分かれていた。が、さすがにここから先へはコウモリを飛ばすわけにもいかないということで、さっさとテメェらの勇者を呼んで来いと言いつけた。


「デルタよ。いくら下々の魔族とは言え、そのような物言いはあまりではないか」

「えー? だっておれ、ジャスティスの彼氏じゃん? そのくらいの特権くらいあってもいーじゃーん!!」


 自分でも気づいている。ちょっとキャラ変したよね? でもさ、よーやく好きな人に告白できたのよ。そんでもって、両想いだったわけよ。そりゃーもう、すんげぇー嬉しいから、天狗になっちまうんだよなぁ。


「一体これはなんの騒ぎなんだ?」


 複雑に入り組んだ洞窟の一つの道から現れたのは、黒髪の男だった。なぜか上半身が裸で、下半身の前肢は普通のおみ足、後ろ脚、というか、臀部から後ろにかけては鹿の脚のようになっている。長い黒髪は魔王様ほど艶やかでもないし、その両側頭部からにょっきり生えるホーンは、あきらかにこいつが本来の持ち主ではないとわかるほどわざとらしくくっついていた。だってすんごい立派な鹿の角だもん。魔界での鹿はとても神秘的な存在だから、鹿殺しは極刑に当たる。つまり、こいつは鹿を殺したんだ。


「勇者様。こちらが例の――」


 コウモリ族の親分を平気で殺し、その後に族の指揮を取っていた野郎が、声をかけたものの、話は途中でぶった切られる。


「おおっ!! これは見事なホーンだ。でかした。まぁ、少しばかり欠けているようだが、よく連れ帰ってくれた。しかもこやつら、なかなかの男前」


 並程度には整った顔の男はだらしなく目尻を下げた。キッモ。なんだかキッモ。


「ようこそ、わが洞窟へ。おれの名はユウキ」

「本当はその名ではないのであろう?」


 いけしゃあしゃあとユウキと名乗った鹿男を、ついさっきまでいちゃいちゃしていた魔王様がぴしゃりとはねのける。


「……ほう? ユウキと面識があると?」

「そなたからはまがまがしい臭いがする。人間が魔族を、鹿を食ったというのか?」


 ほ、ほへぇーっ!! そいつはなんとまがまがしいっ。ということは、こいつはやっぱり極刑だな。


「ふん。ユウキだけがいい思いをするなんて許せん。しかも、あいつはおれを裏切り女に走った」


 うん? 本当にユウキの知り合い? おれが首を傾げると、鹿男が魔王様にしなだれかかろうとしているではないかっ。おれはそいつの汚れた手をパシリとはねた。


「へん。二人はそういう仲かい」

「あんた、さっきから無礼すぎるぞ。このお方はなぁ、なにを隠そうかの魔王様であらせられる!!」

「足元にひれ伏せば満足かい? ユウキもそうだったな。あいつとは昔から王様ごっこをして遊んでいたからな」


 ごっこ? ごっこって、なに? おさななじみとかそういうやつ? そんな遠い目をしないでくれ。


「ふん。ならば教えてやろう。おれの名はコウキ。ユウキとユカリと共に、気づいたらこんな場所に来ていた」


 うーん? なーんか、ちぃーとずつわかってきたぞ。もしかしたらこいつ、ユウキの野郎にだまされたんじゃない? それがまた、なんでこんな洞窟で異形の姿でコウモリ族を従えているんだ? っていうか、この人勇者御一行にいたっけ?


「それなのに、ユカリなんかにそそのかされて、魔王城でやりたい放題。二人に出し抜かれたおれは、洞窟に幽閉されて、あかるい日差しの下に出られない体にされてしまった」


 いや。べつにおれたち、あんたの愚痴につきあうためにここまで来たわけじゃないんだよ。一応つづくけどな。




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