第22話 甘々な感じ?

「ならさ、さっさとその勇者とやらの元へ案内してくれよ。おれたちはもうこれ以上の犠牲を出したくないんだ」


 マリーの死、そして化け狸の死。更にここへ来て、コウモリ族の親分の死と、あんまりなことがつづき過ぎている。魔王様の心の負担も計り知れない。


 けど、こいつらは族の親分を簡単に殺す連中だからな。ここは少しばかりきつく言いつけておく必要がある。


「ただし。ちょっとでもおかしなマネをしてみろ。全員タダじゃ済まないから覚悟しておけよ」


 えらくドスの利いた声になってしまったが、コウモリ族にとっては効果抜群だったらしい。甲斐甲斐しく、こちらですー、なんて案内してくれている。だが、おれたちは飛べない。飛んで飛べないこともないが、城を奪還する前に無駄な体力、魔力を使いたくはない。


 ってなわけで。


「デルタ。これは一体どういうことなのだ?」

「あれ? 魔王様知りません? 神輿ってヤツですよ。こうやって、下々が神を担いで運ぶのです」


 あきらかに疲弊しているコウモリ族を前に、魔王様はあきれを通り越して、心配している。


 そう、これは神輿なんかではない。ただ単にコウモリの背中に乗せてもらって飛んで、楽をしているだけである。文句あるかっ。


「だが。我らは神ではない」


 神々しいほどに心の綺麗な魔王様は、神輿というのを信じていらっしゃる。なので、ここは言い含めておこう。なにしろこの後、大切な魔王城奪還が待っているのだからなっ。


「でもあなたは魔王様だ。それにおれは、あなたの腹心の部下であり、恋人でもある。権利くらいならあるでしょ?」


 からかうようにおれが言うと、魔王様の白い頬がサッと赤くなった。おや? これはこれは珍しい。


「デルタ。そういうことを人前で言うでない」

「けど、本当のことでしょう? おおっぴらに宣言しておかなけりゃ、あなた簡単にだまされて、他の奴の恋人にされかねないんだから」

「そ、そなた。少しばかり性格が変わったのではないのかっ!?」


 そう言われればそうかもしれない。だけど、お互いの気持ちを確かめあった今でなら、それも許されそうな気がするんだ。


「はいはい。魔王様は意外と恥ずかしがり屋さんだったのですね」

「か、からかうでないっ!!」


 やっべー。今、しあわせだ。ここで死んでも悔いはない。だが、魔王様を残して死ぬわけにはいかない。ということで、長生きしちゃるぜー!!!


 なので。


 おれはかるーく魔王様の少し膨れた赤い頬に口付けた。


「なっ!? デルタ!? 仮にも人前でそんなことをするでないっ!!」


 お、照れてる、照れてる。


「だってぇー。ジャスティスだって床を共にしたいとかなんとか言ってませんでしたっけ?」

「知らんっ!!」


 そうして、ニヤつくコウモリ族へ、おれはフリフリと手を振った。


「見世物じゃねぇーぞぉー」


 けど、本当は見て欲しい。この美しい魔王様は、おれの恋人なんだぜってところを、見せつけてやりたい。


 そうして、コウモリの背中上でのいちゃいちゃはつづくのだった。


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