ニセモノの勇者

第19話 イチゴジャム

 魔王様がほんの少し復活したところで、宿屋の女将に頂いたイチゴジャムの存在を思い出した。


 結局、マリーにこれを食べさせることはできなかったな。


 反省の思いを胸に、瓶の蓋を開ける。甘くて優しい香りが鼻をついた。


 おれは、ジャムを指に少し取って、舐めてみた。あまーい。これなら、魔王様も癒されることうけあいだっ。


「魔王様、イチゴジャムはどうです? とっても甘くて美味しいですよ」


 魔王様は、拗ねたような顔つきでおれを見上げた。


「デルタが食わせてくれなければ嫌だ」


 おおーっ。魔王様に甘えられているっ!! これはレア魔王だっ。妄想じゃない!! 本物のお言葉だぁーいっ!!


「はいはい、ただ今」


 おれは内心の胸の高鳴りを抑えて、魔王様へ捧げるために、自分の指でジャムを取った。魔王様は待ちきれなかったらしく、すーぐ顔を近づけてきて、おれの指をパクッと口に入れた。可愛い。かつて、木から落ちた魔鴉の雛を世話したことがあるが、そんな感じでめちゃくちゃ可愛ええ。


 ……両想いになったとはいえ、いきなりこれでは理性が吹き飛んでしまいそうだ。ああ、これはなんというプレイなのだろう?


「とても、優しい味がするな」


 けれど、そんなおれの想いとは裏腹に、魔王様はしんみりとしてしまった。このジャムを、マリーに食べさせたかった。その想いは今でも変わることはないのだ。


「よしっ!! 糖分を補給したことだし、城まで急ごうではないか、デルタ」


 そして魔王様は復活も早い。こうなったら、とっとと元凶を叩かなくちゃな。


「合点承知っ!!」

「ちょーっと、待て」


 そこへ、いつのまに近づいていたのか、コウモリの魔族が飛んで来やがった。


「なんだよ。おれたちは今、忙しいんだ。雑魚を相手にしている暇なんてないんだよっ」


 おれの捨て台詞を鼻で笑ったコウモリは、バサリと地面に降りてきた。こいつ、意外とでかいな。


 そして、コウモリは仲間を何人も連れていた。と、いうことで、おれたちはすっかり、コウモリ族に囲まれる形となる。


「はん。おれ様を雑魚呼ばわりしたことを後悔させてやるぜ。なにせこのおれは、勇者様直々の部下。つまり、魔界を任せられているってわけだ」


 ははーん。どうやらこいつ、なにかいろんなことに関わっているらしいな?


 怪しいからつづく

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